107.幼い娘に気遣われてしまったわ
積まれたお祝いの品を分類して、大公家の屋敷へ送った。以前に貰ったお祝いに重ねて、また届いたのだ。お礼状の作成はお父様やお母様に任せ、侍女達が開封する品物を分類する。リリアナも手伝ってくれた。エルはベッドで応援だけね。声が聞こえる。
「まっま!」
ばっと振り返り、リリアナと顔を見合わせた。侍女達も興奮状態だ。
「いま、ママと呼んだのかしら」
「そうだと思います」
リリアナが後押ししてくれたので、近づいてエルに「なぁに」と微笑む。柵に掴まり立ちしたエルは両足を踏ん張り、体を揺らして「まっまぁ」と呼んだ。でもなぜかしら「マンマ」とご飯を要求された気になる。
「ご飯?」
笑顔で手を伸ばすエルを抱き上げれば、ぎゅっと私の髪を握った。その仕草が可愛くて、頬擦りする。
「やっぱり、ママだったんですね」
リリアナも嬉しそうに笑った。可愛い娘と愛らしい息子がいて、もうすぐ素敵な旦那様が出来る。過去の不幸をすべて拭い去るほどの幸せが訪れるの。
結婚式まで日がないので、私達は再び準備に入った。お屋敷が完成すれば、私達は引っ越す。お父様とお母様は、迎賓館だった公爵邸を建て直すと決めた。忙しく流れる日常を、必死でついていく。
「ティナ、リリアナ! エルも元気だったか」
久しぶりにオスカル様が顔を見せて、大叔父様に書類を押し戻した話を聞いた。お父様が送った文官が、オスカル様の書類の山に、大公閣下の署名が必要な文書を見つけて抜き出したところ、半分ほど混入していたことが判明した。すべて差し戻したら、オスカル様の書類処理量が激減したんですって。
優秀なニエト子爵も協力してくれたので、時間を作って帝都へ馬を走らせたのだと。
ニエト子爵夫妻には、感謝しても仕切れないわ。出来たら、夫人や令嬢とも仲良くしたいの。雑談しながら皆で夕食を食べた。お風呂の後、オスカル様がリリアナを誘う。一緒に寝ようと微笑みかけたら、真っ赤になって私の顔を見るのよ。
「どうしたの? お義父様と眠ったらいいわ」
いつもは私と寝ているものね。そう付け加えて首を傾げた。彼女は小さな声で「邪魔じゃない?」と確認する。意味がよく分からないけど大丈夫だと伝えて、人形のマリアと送り出した。
意味が理解できたのは、ベッドに入ってしばらくしてから。エルを抱き寄せたベッドの広さに気付いて、溜め息をついた時だった。
もしかして、リリアナは私とオスカル様が一緒に眠ると思ったのかしら! だから自分がオスカル様のベッドにいたら、邪魔になると考えた。嫌だ、あんな幼い子に気遣われてしまったわ。
真っ赤になった私は、ベッドを転げ回りたい気持ちをぐっと堪える。明日、何も気づかなったフリでリリアナに挨拶できますように。祈るように目を閉じた。
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