62.花の妖精の出来上がり

 夜会の前、軽食のパンケーキを頬張るリリアナは、着替えたドレスに前掛けをした。本人は「子供じゃないわ」と嫌がったけれど、汚してからでは遅い。一緒に私が前掛けをしたことで、これがマナーだと覚えさせた。


「皆、これするの?」


「ええ。そうよ」


 お父様はすでに宮殿へ出向いており、お母様はまだお着替え中。どちらもこの場にいないので、前掛け姿を披露することはないけれど。


「エルも?」


「エルもそうね」


 授乳で吐き戻しても大丈夫なように、前掛けに似たエプロンを被せることが多い。ようやく納得して、リリアナはまたパンケーキを口に入れた。


 正式なテーブルマナーはまだ早いけれど、人を不快にさせる音を出さないよう徹底している。これは貴族の子なら当然だった。手掴みせず、音を出さないだけでいい。ナイフやフォークの扱い方は、大人になるにつれ嫌でも覚える。


「おとぉ様とおじぃ様はまだ?」


「到着したらサロモンが知らせてくれますよ。溢れてるわ」


 質問と食事を同時にすれば、口についた蜂蜜が垂れる。前掛けに垂れた分はいいけど、口元は拭わないと。手を伸ばしてナプキンで綺麗にして、リリアナに微笑みかけた。


「ありがとう、おね様」


 照れたように頬を赤くして笑うリリアナは、残りを口に放り込んだ。もぐもぐ咀嚼する唇に、ジャムが付いてるわ。それも丁寧に拭っていると、サロモンが来客を告げた。


「お通しして」


「お迎えに上がりました」


 オスカル様は一人で入室した。首を傾げたところ、簡単に説明される。向かう途中でベルトラン将軍と会い、意気投合して同行したとか。夜会の衣装で、ですよね?


「ええ、汚さなければいいですよ」


 苦笑いするオスカル様に、前掛けを外してもらったリリアナは胸を張った。


「私は、綺麗よ」


 汚さなかったと言いたいのに、ドレスアップしていることも手伝い、違う意味に受け取られた。


「本当に綺麗だ、お姫様。この首飾りは誰が選んだの?」


「おね様よ」


「リリアナと選んだのです」


 私だけではなく、リリアナの意見も入ってる。オスカル様の琥珀の瞳に合わせ、琥珀をふんだんに使った首飾りにしました。髪飾りは青紫のドレスに合わせ、サファイアをあしらった逸品に。まるで愛らしい花の妖精みたいです。


 どちらもリリアナの装飾品が入った宝石箱から選んだ。おそらく二人が買い与えた物だろう。まだ子供なので耳飾りや指輪は控えた。その分、首飾りには幅のあるレースを添え、豪華に仕上げている。


「バレンティナ様もお美しい」


「ありがとうございます」


 照れた私がさらに言葉を足そうとした時、ちょうどお母様が入室した。


「あらやだ、邪魔したかしら」


「いえ」


 すぐに否定するオスカル様は丁寧に腰を折って挨拶し、お母様も優雅に膝を落としてカーテシーを披露する。この時点で気づいたのですが、私……きちんとご挨拶していませんでした。

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