27.私の人生はこれからよ
用意された客間は、とても広かった。元婚家で使った侯爵夫人用の部屋より大きい。客間って普段使わないのに、贅沢だわ。
立派な調度品を眺めながら、ベッドに腰掛けてナサニエルに乳を与えた。夜泣きが少ないので助かると思っていたら、これからが大変なのよとお母様が教えてくれた。どうやら今はほとんど眠っている時期みたい。今後のために、気持ちを引き締めなくちゃ。
乳房に小さな両手を伸ばし、必死に母乳を吸う我が子を見るだけで目が潤む。ただただ愛おしくて、幸せだった。この子が無事で本当によかったわ。あの子爵家の女の子、ちゃんとご両親の元へ帰れたかしら。お祖父様達が動いているなら、安心だけど。
眠る前はいろいろと考えてしまう。ナサニエルは満腹になったようで、げふぅと大きなゲップをした。これを忘れたら後で吐くから危険だと教わった。お腹が満ちるとすぐ眠くなるナサニエルを、用意されたベッドに横たえた。
食堂で使っていた小さな車輪のベビーベッドだ。これが無理なく移動出来たのも、この屋敷が一階だけの建築物だからね。もし普通のお屋敷なら、景色のいい上階に客間があるはず。
「ナサニエル、おやすみなさい」
頬と額にキスをして、我が子のベッドを枕元へ引き寄せた。行動を見透かしたように、サイドテーブルが離れた位置に置かれている。小さな気遣いが嬉しかった。
横たわって、我が子の方へ体の向きを変える。揺れる馬車の中も快適に眠れたけれど、やはり揺れないベッドは落ち着くわ。うとうとしながら、今後の予定を思い浮かべた。
離縁が成立したなら、私は皇孫に戻るの? いえ、その前にお父様が新たな公爵位をもらったと聞いたわ。公爵令嬢……出戻っても令嬢でいいか分からないけど。
眠いせいで考えがまとまらない。意図的に思考を切り替えた。
まず皇帝陛下であるリカルドお祖父様にご挨拶して、離宮に住まうひいお祖父様にお礼も言わなくちゃね。それから久しぶりに会うお祖母様や叔母様達、従兄弟や従姉妹にも挨拶がしたい。これから帝国で暮らすなら、お友達も作らなくては。出来たら、ナサニエルと近い年齢のお子様がいる夫人がいいわ。
やることが次々と浮かんできて、なんだかワクワクした。嫁いだらその家に尽くして子を産む。それが妻の役割だと考えてきたけど、離縁すれば関係ない。お父様やお母様と暮らす屋敷も探さないと。使用人はほとんど同行してくれたから、彼らの家族の住む家も必要ね。
ごろんと寝返りを打ち、天蓋に覆われた天井を見上げた。ふふっと笑いが溢れる。完璧な人生なんてないけど、それに近づけることは出来る。私の人生はこれからよ。
――もしかして、新しいお母様なの?
突然、リリアナの言葉が蘇った。眠れそうだった意識が覚醒する。真っ赤な顔のオスカル様を思い出し、かっと顔が赤くなった。やだ、どうしよう……眠れなくなっちゃうわ。
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