14.お迎えは将軍率いる精鋭部隊

 帝国軍と合流すると聞いていましたが、まさか屋敷まで迎えに来るなんて想像もしません。


 本来は軍事物資を積む大きく頑丈な荷馬車が到着し、箱詰めされた日用品が詰め込まれる。備え付けの物や大きな家具は残すので、木箱には食器や燭台などが入っていた。


 ドレスや宝飾品は、布が張られた専用の箱に収められる。侍女や執事が数を確認し、すべて載せ終わりました。そこから使用人の荷物や家財が積まれる。まだ余裕があるのが凄いですね。大きな荷馬車は合計6台もあり、1台は空のまま余っていた。処分した家具が多かったみたいです。


「お迎えにあがりました。フェリシア第三皇女殿下、並びに皇孫バレンティナ皇女殿下」


「ありがとう。でも今はエリサリデ侯爵夫人と呼んでちょうだい」


 お母様は指揮官のご挨拶を、一刀両断しました。お母様は皇族を出たとお考えですが、帝国の方はそう思わないようです。首を横に振り、言い直しました。


「大変失礼いたしました。カルレオン帝国エリサリデ公爵夫人とご令嬢と呼ばせていただきます」


「それならいいわ」


 満足そうに頷いた後、お母様はぽんと指揮官のおじ様の肩を叩きました。


「堅苦しい挨拶は終わりよ。お祖父様のご指示かしら? まさか将軍のベルトランを派遣するなんて」


 襟章や裏が濃紺のマントは、将軍の肩書きを示す物。お母様の指摘で初めて気づく。ナサニエルを抱いた私は、玄関先に用意されたソファの上で目を見開いた。ちなみに、このソファは残す家具です。


「今回の任務にあたり、立候補しました。フェリシア様のお迎えとあらば、部下に任せておけませんからな」


 はっはっはと豪快に笑うベルトランの声に、ナサニエルが「うぎゃぁ!」と泣き始めた。慌てて揺らせば、すぐに泣き止む。驚いてしまったみたいね。


「馬車は揺れを抑えた最新のものを手配しました」


 少し声を抑えた将軍が示す馬車は、普通の馬車より長細い。お父様に抱き上げられて運ばれ、中に入って理解した。車内は平らな寝台が用意され、クッションが周囲に敷き詰められている。降ろしてもらった台は柔らかく、底が平らな籠も置かれていた。


「こちらは若君のベッドにご使用いただけます。何分にも急拵えのため、不備があれば遠慮なくお申し付けください」


「いえ、ありがとうございます」


「気が利くわね。ありがとう、ベルトラン」


 お祖父様の側近であるロブレス将軍を、お母様は「ベルトラン」と名前で呼ぶ。軍の方々の前で、問題ないのかしら。心配していると、お父様の手を借りて、お母様も同じ馬車に乗り込んだ。旅は長いのだし、帝国の事情はゆっくり聞きましょう。


 使用人は使わなかった空の馬車に乗り込み、思い思いに陣取っている。国を離れるので希望者を募ったのだけれど、ほとんどの使用人が家族を連れての移住を希望した。お陰で、人数は使用人全体の4倍近いわ。


 お父様は颯爽と馬に跨り、帝国軍は屋敷の施錠を済ませて帰路に就いた。屋敷を出た時に少し揉めたみたいで、お父様の怒声が聞こえた。それも将軍の一喝で終わり、行軍は速度を緩めることなく街道を進んだ。馬車の揺れは心地よくて、私はお母様と話しながら、いつの間にか眠ってしまう。


 ナサニエルと安心して暮らせる帝国へ向かう。家族も含め、最強の軍に守られている。その安心感は、私の口元に笑みを刻んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る