13.不当に交換された赤子

 ナサニエルを発見したのは、調査に長けた人材を活用したお父様だった。金を積み、そういった裏事情に長けた人物を頼ったとか。その結果、同じように裏社会を利用したセルラノ侯爵家の話に引っかかった。


 王都の外に住む貴族の中から、女児を産んだ家を探し、男児と差し替えられないか。依頼内容はそんな感じだったらしい。急ぎと言われ、王都から馬で2時間ほどの距離にある街に住む、子爵夫人が産気づいたと報告した。女児が生まれた報告に、入れ替えは即日決行され、子爵夫人は自らが産んだ子が男児だと思い込む。


 しかし、やはり母親だ。己が産んだ子か悩んだらしい。というのも、容姿が父母のどちらにも似ていなかった。私が知る女児は、金茶の髪に緑の瞳だったわ。両親から受け継いだ色だけでも違和感が残る。ナサニエルは金髪に琥珀の瞳だから。


 そう話せば、お母様も頷いた。


「子爵は茶色の髪と緑の瞳、子爵夫人は金茶の髪に薄青の瞳だったそうよ」


 お父様が直接お会いになり、直談判した。子爵家も不審に思っていたこともあり、侍女の一人が犯人として捕まる。大金に目が眩んだらしい。


 そこで気づいた。ならば、子爵家のご令嬢は夫人の元へ帰っていないのでは? 泣き暮した私のような思いをしているかも知れない。


「安心して。子爵家からモンテシーノス王家に対し、陳情を出させたわ。後押しはもちろん、カルレオン帝国よ」


 私が育児を拒否してしまった子は、まさかの誘拐被害者でした。子爵夫人や女の子に悪いことをしてしまったわ。お乳をあげるくらい出来たはず。少し自己嫌悪に陥る。あの時は怒りと悲しみで何も考えられなかったけど、あの女の子に罪はなかったのよ。


「落ち込まないで。カルロス王が解決してくれるわ」


 お母様、そのセリフだと丸投げに聞こえます。実際、この国の中で起きた誘拐事件なので、モンテシーノスの法に則って解決すべきでしょう。


「早く子爵夫人が自分のお子様を抱けることを、祈っております」


「ふふっ、もし抵抗されたら帝国軍を動かすから平気よ」


 全然平気ではないと思います。早く子爵令嬢を返さないと、とんでもない事態になりそうね。帝国相手に一侯爵家が勝てるはずもありませんし、同情する気も起きません。


「さあ、明後日から移動よ。明日の午後には軍が到着するわ。しっかり体を休めておいてね」


「はい、お母様」


 ナサニエルはぐっすり眠っている。私のベッドは柵がついたまま、今も使用していた。ここは片付けないのかしら。お母様にお伺いしたところ、私達を馬車に移したらすぐに片付けるそうです。お屋敷の処分も含め、サロモン達に無理をお願いしました。きちんと労ってもらえるよう、お父様にお願いしておきますね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る