12.離縁手続きは順調に
ひいお祖父様自ら軍を率いる。そんな連絡に、お母様が慌ててお断りを入れた。疲れてるフクロウには悪いけれど、翌朝すぐに飛んでもらったらしい。前日に庭師が見つけた新鮮なミミズをたらふく食べ、フクロウは渋々ながらも帰っていった。
いつもなら数日は休んでもらうんだけど。早く連絡しないと、ひいお祖父様が出立してしまう。うちにはフクロウはいないから、何度も謝って空に放った。途中で休んだりしないといいけれど。
私達の懸念をよそに、帝国では着々と準備が進んでいた。その中で、ひいお祖父様はお祖父様に叱られたみたい。軍の行進速度が遅くなるから迷惑ですと切り捨てられ、ひいお祖父様は国境までと約束させられたとか。
眠そうなフクロウの尻を叩いて飛ばせた僅か2時間後の追加フクロウ便に、お母様がほっとした顔を見せる。
「お父様が止めてくださったわ。でも国境まではお迎えに来られるそうよ」
その話を聞いて、今度はお父様が焦った。カルレオン帝国の先皇陛下を国境でお待たせするわけにいかない。そう言って、家令のサロモンに家財の処分を急がせた。執事ティトも忙しく走り回る中、動けなかったのは私とナサニエルだけ。
「なんだか申し訳ないわ」
私の離縁が原因なのに、こんなことになって。そう口にすると、お母様はからりと笑った。
「お祖父様は、以前から機会があれば私達を帝国に引き取ろうと必死だったの。今回はチャンスとばかり、大喜びしてるはずよ」
侍女のテレサを含め、使用人達は忙しい。お母様はご自分の準備が終わったと仰り、可能な限り私とナサニエルに付き添ってくれた。家の女主人だもの、本当は時間が空くはずないのに。差配をすべて家令や執事に振り分けていた。
「ティナ、離縁の手続きはカルロス王が進めています。何も心配しなくていいの。もちろん、母親であるあなたに親権は与えられるわ」
「ええ」
何度もお礼を言い過ぎたのか。お母様に今朝注意されたので、今回は頷くに留めた。一貴族の離婚騒動に、国王陛下を巻き込むことになるなんて。私が皇孫だとしても、かなり不敬なお願いと感じた。いつかお詫びしなくては。
我が子ナサニエルの親権は、絶対に渡さない。あの人達は「跡取り息子」であるナサニエルを捨てた。その辺の事情は、お母様も濁すけれど否定しなかったわ。詳しい事情は、私の体調や精神状態が安定してから、と言われたけれど。
「ねえ、お母様。そろそろ教えてくださらない? どこでナサニエルを見つけたのですか」
じっと私を見つ返したお母様は、抱いた孫ナサニエルに視線を落とした。それから目を閉じて溜め息をひとつ。
「ナサニエルは大切にされていたわ。母乳を与えられ、清潔で暖かな部屋で……」
まず安心材料から話すのは、お母様の癖ね。つまりこの先は、すこし嫌な話が続く。すべてを受け止める覚悟を決めて、私は耳を傾けた。
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