11.竜の尾を踏んだ国――SIDE国王
モンテシーノス王家は、近隣諸国の中では歴史が浅い。当代の国王で7代目だった。王家としての基盤が出来上がって間もない時期に、強大なカルレオン帝国の姫を迎える話が持ち上がる。
王家に嫁いでくれたら完璧だったが、第三皇女が選んだのは……成り上がり伯爵アウグストだった。なんとか王子の中から夫を選んでくれないかと打診したが、一蹴されてしまう。文句があるならアウグストを婿として迎え、帝国の貴族にすると言われた。そこまでされたら、王国に旨みは一つもない。
慌ててバジェ伯爵家次男であり、エリサリデ伯爵になったアウグストを侯爵へ引き上げた。当然国内の貴族から反発はあったが、帝国の意向だと黙らせた。多少強引だったが、カルレオン皇族の血筋が、王国に加わった形だ。
やがて一人娘であるバレンティナが、セルラノ侯爵と恋仲になった。今度こそ王子の嫁にと考えていたため落胆したが、無理やり嫁がせても遺恨を残す。王家は今回も大人しく静観の構えを見せた。
「何ということだ、あの愚か者がっ!」
カルレオン皇族に連なる娘を妻に迎えたセルラノ侯爵が、失態を犯した。帝国からの抗議内容はぼかされているが、現皇孫のバレンティナの出産時期と重なる。おそらく浮気だろう。そう踏んで、国王カルロスは苛立った。
怒り狂った先皇はもちろん、現皇帝からも厳重な抗議があった。エリサリデ家はモンテシーノス王国の侯爵位を返上し、帝国の公爵家として迎える。邪魔をすれば、国ごと滅する、そこまで言い切られた。
関係改善は無理だろう。少なくともほとぼりが冷め、落ち着くまで帝国の要求を呑むしかない。初子が生まれる時期に、なぜ愚かな行為をした。国王自身、可愛い跡取りが生まれたばかりだ。側妃を持たぬカルロスは、セルラノ侯爵ベルナルドの愚かさに本気で腹を立てた。
「セルラノ侯爵へ使いを出せ。すぐに出頭させよ」
厳しいカルロス王の言葉に、貴族の中で様々な疑惑が浮かび、噂となって駆け巡った。どうせすぐに知ることになるのだが、カルレオン帝国の姫を娶ったセルラノ侯爵を羨む貴族は、悪い噂を流す。それは貴族社会での孤立を意味していた。
モンテシーノス王国が騒がしくなる中、カルレオン帝国からの軍が到着する。帝国の属国アルムニア公国を経由した軍は、王都まで歩を進めた。通常ならばあり得ない。国境を越えれば、宣戦布告と取られかねなかった。そんな緊迫した状況でも、王家は動かない。
カルレオン帝国からの脅迫に似た「要請書」を手に、カルロス王は眉間を強く押さえた。ここで手を出せば、国が滅ぼされる。カルレオン帝国軍は、守るべき最上位の皇族の保護を掲げていた。士気が高い彼らを阻むほど、愚かな王でなかったことは、民にとって幸いだ。
「ドラゴンの宝を譲られながら、価値が分からず怒らせた……セルラノ侯爵の処分なくして、我が国の生きる道はない」
嘆息しながら、カルロス王はここ数日で持病になった頭痛に呻いた。
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