4章 高品質薬草の量産

26.領主館のヒール草畑

 薬草の鑑定もするようになり、庭のヒール草を毎日鑑定しては納品している。

 ハイポーションの生産も順調ではあった。


「そこで、なんですけど、ヒール草の納品数を増やせないか、とお父様が」


 フィリア様が頬に手をついて首をかしげて質問してくる。


「うーん。あのヒール草、実は裏庭の草を納品しているのだけど、これ以上採ったら、なくなっちゃうよね」

「そうですね。あの庭のヒール草はそんなに数がありませんものね」

「そうなんだよ」

「うーん」


 二人で難問を考える。

 鑑定だけならもう少しできるから余裕があるが、全部収穫したら次がない。

 うちの裏は狭いので、仕方がないのだ。


「聖水をヒール草に撒いているのですよね?」

「うん」

「聖属性2の私でもできるかしら、例えば領主館にヒール草畑を整備して」

「大丈夫だと思う」


 サフィアちゃんも連れていき、三人で領主館の庭いじりの指揮を執った。

 実際に作業をするのは下働きのメイドさんたちだ。

 庭師のおじさんを先頭に、みんなで頑張る。


「よいしょ、よいしょ」

「ヒール草、ヒール草」

「ふふ」


 みんなでやるとなんだか楽しい。

 ところでサフィアちゃんも聖属性が2くらいある。

 同じ2でも揺れ幅があるんだけど、さてどれくらいなのかは不明だ。


「完成」


 外から持ち込んできたヒール草を畑一面い植えた。

 もちろんフィリア様の聖水で管理できるだけの広さだ。


「魔法――聖水」


 フィリア様が出した聖水をヒール草に少しずつ分けて掛けていく。

 キラキラした金色の粒子が綺麗だった。


「よし、聖水も撒いたし、終わり!」

「はい。では、毎日聖水を掛けるようにお願いね、フィリア様」

「了解ですわ、天使エミル様」

「はいはい」


 天使様との言葉にいちいち真面目に返事をしていたら、面倒くさいことこの上ない。


 完成したので、みんなで薬草茶を飲む。


「お茶にしましょう」

「わかった!」

「お茶~飲むぞ」


 三人でテーブルに着く。


「あら、できたのかしら」

「ママっ? 大丈夫なの?」

「ええ、とっても体はいい感じよ」

「よかった」


 侯爵夫人ミランダ様が様子を見に来てくれた。

 以前より顔色もよくなり、頬もいくぶんか赤くなった。

 痩せこけていたものも少し肉が付いたように見える。

 それでもまだだいぶ細くて心配ではある。

 そもそも自分で歩いて居るだけでもかなりの回復だ。

 たまに寄ったときに軽くヒールを掛けたのがよかったのだろう。

 この分なら大丈夫そうだ。


「よかったね、フィリア様」

「はい、これもそれも全部エミル様のおかげだと思うと」

「うんうん。毎回その話だと長くなるからいいよ」

「エミル様ぁ」


 私にくっついてきて、甘えてくる。


「ごろごろごろ」


 猫を真似してか、すりすりしてくる。


「エミルちゃんはやらんぞ」


 ぼそっとサフィアちゃんも牽制してくる。


「独り占めなんてしませんわ。一緒に愛でましょう。優しいご主人様だもの」

「お、おう」


 二人して私を左右から挟んでぐりぐりしてきた。

 まぁこういうのもたまには悪くはない。


 後日。また領主館にヒール草を見に来た。

 前よりも背丈も大きくなり、立派になっていた。


「いい感じじゃない」

「そうですよね、エミル様」


 試しにいくつか鑑定してみると、高品質の割合が確かに高くなっている。

 やったぞ。やっぱり私のうちの庭だけじゃないんだ。

 私にしかできないから金貨を貰っているのだけど、それだと町の将来は心配になる。

 これに頼っていてはダメだろうな、と思っていたのだ。


 でも私以外でも同じようにやれば同じようになるということが分かれば大収穫だった。

 ボルドじいさんに聞いた話でいうと「再現性」という。

 ちょっと難しい概念だけど、重要な意味があるのだ。

 誰でもできる、誰でも確認できるなら、とってもすごいことだ。


「やったね、みんな!」

「はい、エミル様のおかげで」

「あははは、やはりエミルちゃんはすごいのだぞ」


 三人でぴょんぴょんと飛びあがって喜び合った。


「では、鑑定で見るね」


 私の庭ほどではないが高品質ばかりだ。

 選別して収穫していく。


「よし、20本」


 さてこれをギルドに持っていこう。

 それから明日、明後日の分の鑑定も先に済ませて目印をつけておく。


「これで明日収穫すればいいね」

「ありがとうごございます」


 三人で馬車に乗せてもらい、冒険者ギルドまで行った。


□◇□◇□─────────

 こんばんは。

 【ドラゴンノベルス小説コンテスト中編部門】参加作品です。

 中編だと文字数がギリギリなので、これにて一端停止となります。

 他にも何作か参加していますので、もしご興味あれば覗いてみてください。

 よろしくお願いします。

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薬草採取家の達人ハーブマスターになりたい!! 滝川 海老郎 @syuribox

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