第六話 先駆けの獅子



 次の日、暖かな陽光がカーテンの隙間から漏れていた。薄暗い部屋の中、布団にくるまったディノは浅い寝息を立てている。

 早起きをしたメドはベランダに出て報告書を書いていた。ディノが起きてからは遅すぎるからと、手早く昨日の状況を書き連ねる。もちろん、例の件は一切省いて、妖魔を倒したことだけを記す。

 緑豊かな寮の庭は丁寧に草が刈り取られ、春の花が色とりどりに咲き誇っていた。眺めていると、夜に取り残されたくすんだ感情が洗われるようだった。

 メドはコーヒーを一口飲む。

「ここにいたのか」

 いつの間にか起きたディノが、髪をかきあげながら顔を出した。

「おはよう。午前中に目覚めるなんて珍しいな」

「お、報告書もうそんなに書いてくれたのか。助かるぜ」

 寝起きの目を細めて笑い、ゆったりとした足取りでベランダに出ると、椅子には座らず手すりに寄りかかった。

「……カフェオレをいれてやろうか?」

「どうした、急に優しいじゃないか」

「疲れた顔をしているから」

 おそらく一昨日よりもずっと。

「いつもの任務より緊張感があったからな。そのせいだろ」

「まともに応戦できなかった、俺もいけなかったんだ」

 ディノは背中で寄りかかる。

「そんなものだよ。本気で人が殺し合えば誰にも防げやしないんだ。実力の問題じゃない。どんな弱い人間も首を締めることはできるんだから」

 風がディノの赤髪を靡かせる。逆立ったその頭は、まるで獅子の鬣のようだった。

「戦争は、本当に起こるのか」

 流し目に彼はメドを見る。

「……予兆は、ある。それだけしか言えない」

 立ち上がったメドは、ディノの隣に立つ。

 しばらく考えるように黙り込むと、意を決して口を開いた。

「……契約、結ぼうか」

 その言葉に、ディノは一気に目が覚めた。

「え、……あ、……ほ、本当か?」

 でもこのタイミングだと……と、躊躇う彼にメドは食らいつく。

「契約をしておけば、本来の力をいつでも出せるだろ。もし種族間の関係が拗れればこのことは隠してしまえばいい。」


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ゲヘンナ・ロンド 狗柳星那 @se7_sousaku

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