肉食系女子高生の事件簿

維 黎

タレこみ

 スマホから私の好きな曲が流れ始めると着信画面には『かつにぃ』の文字。


「もしもし。どうしたの? 克にぃ」

奈月なつきか? ちょっとお前に頼みたい事があるんだが」

「頼み事?」

「あぁ。ちょっとした想定外の事件トラブルが起こってな。今の状況では解決しそうにないんだ」

「ちょっと待ってよ。克にぃの――警察の事件で私に頼み事?」


 ベッドの上にぼんやりと座って電話をしていた私は、トンデモ内容に思わず居住まいを正す。

 そう。私の八つ年上の従兄妹――柿崎克彦かきざきかつひこは刑事だったりする。そんな克にぃからの頼み事って。


「ん? あぁ、事件じゃないさ。今日俺、非番だしな。つーか、警察おれ事件しごとでお前に頼み事なんかするわけないだろ」

「まぁ、それはそうだけど……」


 私は克にぃの言葉を聞いてほっとした反面、ちょっぴり残念な気持ちになる。

 難事件を華麗に解決! 女子高生探偵!! なんてね♪


「あ、でもちぃと血生臭い現場ではあるかな」

「えぇぇ!? 一体どんな頼み事を言うつもりなのぉ、克にぃ?」

「それは行ってみてのお楽しみ。奈月ってがっつり肉食系だろ? たぶん涎もんだぜ?」


 失礼な。人を色ボケ女子みたいに言わないでほしい。

 いや、まぁその。私だって健全な17歳女子高生だし? イケメンを拝めるならそれに越したことはないけど。

 でも私は自他共に認める肉食系だけど、それは文字通りの意味だから。お肉が好きって意味で。


「――俺の友達が『バラ園』って店やっててさ。知ってる? 『バラ園』」

「知らない」

「そっか。まぁ、ちょっとこだわりの強い店だからな。マイナーなのも仕方ない」


『バラ園』って店の名前からしてお花屋さんかな? 

 克にぃの友達ってことは男の人――だよね、たぶん。あ、でもお花屋さんだったら女の人かも。あ、でもでも涎もんって言ってたから男の人の可能性が大きいか。

 お花屋さん+イケメンの友達+克にぃ=ぼーいずらぶ。


「おおぉぉ!」

「な、なんだ、急に? 獣みたいな唸り声出して」

「――あ、いや。何でもない、何でもない」


 いかん、いかん。

 見知らぬイケメンと克にぃがバラ色背景で陸み合う光景を想像して、無意識の内に声が漏れ出してしまった。


「で、どうだ? 頼まれてくれるか?」

「もう、仕方ないなぁ。どこに行けばいいの?」


 頼まれごとの内容がわからないのは一抹の不安だけどまぁ、いいか。ここは貸しを一つ作っておこう。


「お♪ サンキュー! 実はもう車で奈月んに向かってるんだ。あと10分ほどで着くよ」

「え? そうなの? って、私が断ったらどうするつもりだったの?」

「別に。奈月なら引き受けてくれると思ったからな。じゃ、またあとで」

「……」


 そういえば今まで克にぃの頼みごとを断った記憶がない。

 くそー。これが惚れた弱みってやつか。もしかしてバレてる? 実は子供の頃からずっと好きだったって。 

 まぁ、そこらへんの恋バナは機会があれば詳しくってことで。


「それにしても克にぃの頼み事ってなんだろ? 克にぃじゃ解決できない事件か。さしずめ『バラ園未解決事件』って感じかしら?」



❁ ❁ ❁



「ここ?」

「おう!」


 克にぃの車に乗せられて約1時間。

 着いた場所に思わず疑問の声が漏れる。

 見上げた店先の看板にはこう書かれていた。『焼き肉バラ園』――と。


「――お花屋さんじゃ……」

「ん? いや、何で花屋なんだ? 見ての通り焼き肉店だぞ?」


 いや、むしろ何で焼き肉店なのよ? 『バラ園』って聞いたらお花を想像するじゃない。

 

「んじゃ、案内するよ。入ってくれ」


 勝手知ったる何とかなのか、閉店中と札が掛けられた扉の取っ手を掴んで開けてくれる。

 私に続いて店内に入った克にぃは店の奥、キッチンというか作業場に私を案内する。

 そこは綺麗に掃除が行き届いていたけれど、なるほど。確かにちょっとだけ生臭いような気もする。

 で、見知らぬ顔ぶれが四人。


「いらっしゃい、奈月ちゃん。キミのことは克彦から聞いてるよ。肉食系女子なんだって?」

「ちょっ!? 克にぃ!!」


 思わず克にぃを睨む。

 見知らぬ他人に肉食系ってことを知られてるなんて!

 めちゃんこ恥ずかしい!

 あとでこってり搾ってやる!!


「で、さっそくで悪いんだけどこれを食べ比べてくれないかな?」


 お店のオーナーの智也ともやさんがテーブルに置かれた五つの皿に乗せられたお肉を指し示す。

 ちなみに智也さんを入れて男性二人、女性二人。全員克にぃの友達なんだって。

 ニコニコ笑顔で急にいわれても困る。さっそくで悪すぎる。

 睨みに加えて眉根も寄せた私を見て克にぃが説明をしてくれた。


「実はこの店、。で、この五品の肉はそれぞれ牛、豚、羊、猪、鹿のバラ肉なんだけど、どれが一番うまいかって話しになったんだが、俺を含めて全員の意見がバラバラだったという想定外でさ――って、別にしゃれじゃないぞ? それで奈月にも選んでもらってこの味比べを解決してもらおうと思ってさ。そうそう。お礼に好きな肉をで持って帰っていいってさ? な? 涎もんだろ?」



               ――了――

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