◇
訳の分からない管やたくさんの色付きの液体にあれはなんだ、これはなんだといろいろ訊きたくなる。
しかし冬摩はなにやらわくわくと計算に集中していて質問に答えてくれそうになかった。
筆の走る紙に目を向けてみる。
「おい。3行目、計算間違っているぞ」
冬摩が進む手を止めて駆の指摘のあった3行目まで戻ってみる。
「本当だ。くそ、こんなところで。計算し直しだ。助かった、ありがとう」
思いもしなかったありがとうの言葉に駆は照れたように頭を掻いた。
「前に単純計算の間違いで3日間足止めを喰らったことがあったからな。この段階で気づけてよかったぜ。
お前、数学得意なのか?」
「得意ってほどではないけど、これくらいなら俺でも解けるぞ」
「おお。それはありがたい」
「ここにはお前しか研究者はいないのか?
同士ってやつはいないのか」
「紫苑か?こいつは俺の英文の文法の間違いやら考察の矛盾やらは気づいてくれるがな、計算はからっきしだぞ」
「お前、この計算の続きやっといてくれ、俺は作業を進める」とさも当然のように駆に押しつけ、冬摩は装置のほうへ向かって行った。
ややこしい数式ではあったが知っている方法で手順を踏めば解けないことのない計算であった。
薬品の調合を調べているか、効果を評価するためなのか、なんのための計算なのか分からなかったが、ここに来て初めて任されたことに駆は嬉しさを感じた。
「二人とも学舎には行ってるんだろ?何級にいるんだ?」
「中の二級だ」
「俺は中の一級」
「紫苑はそんな上にいるのか、すげえな」
清香の学舎はまず上、中、下に分かれ、そこからさらに三級から一級に上がっていく。
来たばかりの駆は下の一級から学び始めることになっていた。
「おい、また嘘つかれてるぞ。紫苑は嘘つきなんだ。こいつの言うこと真に受けてたらやってられない」
やれやれといったふうに冬摩が告げる。
紫苑の方が年はいくらか上のようだったし、そんなもんかと思い疑いもしなかった。
「全然気づかなかった」と駆が紫苑を見るとにやにやと笑っていた。
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