第10話 エピローグ
俺は時々、怖くなる。この人たちはどこから来たんだろう。
住民票を見たら全員名字が違った。
実はみんな赤の他人のようだ。
そのことを俺はまだママに聞けないでいる。
それにレンタル料金は、1泊2日で9万だから、最低でもひと月135万円だ。これにさらに、NNオプションを請求されたら一体いくらになるだろうか。彼らともう5年暮らしているから、俺は家も何もかも失うかもしれない。
3人ともまだ猫を被ってる。俺には絶対反抗しないし、いつも笑顔で接してくれる。それが時々、不自然だと感じる。人間だから機嫌のいい時も悪い時もあるはずなのに、いつも、仲良しの理想の家族。
妻は俺の子を何度も妊娠したけど、毎回、流産してしまったと言っていた。本当だろうか。
妻は介護の仕事をやめて専業主婦になった。よくLineで誰かと連絡を取っているが、相手は誰なんだろうか。男がいるんだろうか。妻の親戚や友達に会ったことは一度もない。
****
家族で住み始めて、8年ほど経った頃だ。子どもは、すでに中学生と高校生になっていた。2人とも出来が悪くて公立に通っていた。でも、部活を頑張っているし、ぐれてはいない。
ある夜、家に帰って、2階のリビングに行くと、知らない男が何人もソファーに座っていた。見るからに堅気ではない人たちだった。俺はぎょっとして、階段から落ちそうになった。
「あんた、今まで家族をレンタルしてて、一回も金払ったことないよな?今日、請求書を持って来たから、耳揃えて払え」
そこにいた一番年のいった男が言った。
「え?いくらですか?」
恐れていたことが現実になったのだ。俺の声は震えていた。
「1億円だ」
「そんな・・・払えませんよ」
「じゃあ、借用証書に署名しろ」
「え?」
「そんな・・・」
そこには俺の実印が押されていた。油断して実印と印鑑カードを引き出しに入れっぱなしにしていたんだ。ママが勝手に持ち出したんだろう。
「今から東京湾にクルーズにでも行くか?」
「は、はい。わかりました!」
ママも子供たちもその場にはいなかった。
良心が咎めて、助けに入ってくれるんじゃないか。
俺は淡い期待をしていた。
しかし、やつらはやって来なかった。
「あの・・・家族は?」
「ああ、あいつらはもうレンタル終了」
「じゃあ・・・もう会えないんですか?」
「もう十分楽しんだだろ?」
「いえ・・・そんな。あの人たちは私の家族です」
「あれは劇団の連中だ。全部芝居なんだよ。ばーか」
彼らはどうやら売れない役者たちだったらしい。俺たちの間には何も生まれていなかった。
***
こうして、俺は1億の借金を背負ってしまった。財産をすべて処分して、今は下町にある4万5千円のアパートで暮らしている。俺は、またどこかで3人に会えないかと、出かける度に探している。
東京は人が多すぎて未だに見つからない。
レンタル家族 連喜 @toushikibu
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