第25話 襲来


 学園の食堂内にて、テッド達四人はアルフォンスに対する陰口でしばらく盛り上がっていた。


 しかしずっとその話題だけという事はなく、徐々に授業の話や、他愛も無い雑談に話題が移っていた。


「──あ、そう言えば、何で今日先生達が王都に召集されたか知ってるか?」


「あー、そういや、緊急の会議としか言ってなかったな」


「ほとんどの教員が緊急で召集されるなんて、もしかしたら大事なのか?」


「お前、何か知ってるのか?」


 話題を切り出した人物にテッドは問いかけた。


「噂なんだが、──ドラゴンの目撃情報があるらしいんだ」


「ドラゴン? それが先生達の召集と関係してるのか?」


「かもしれない、って噂だ」


「そりゃドラゴンは強いって聞くけどよ、上位のギルドの人達がドラゴンを狩ったって話も珍しくないだろ。わざわざドラゴン退治の為に学園勤務の魔術師まで総動員して討伐隊を組むってのか?」


「いくら何でも、そりゃ大袈裟だろ」


「だな。ドラゴンったって、〝終焉の黒殲龍〟じゃねぇんだからよ」


「……いや。それが、その黒殲龍かも知れない、って話らしい」


「……は?」


 一同は怪訝な表情を浮かべた。


「目撃されたドラゴンは、全身が漆黒だったらしい」


「いや、漆黒って。だからなんだよ、別にそれだけじゃ黒殲龍って事には……」


 ならないだろう、とテッドが否定しようとした。


「知らないのか? 全身が漆黒のドラゴンは、歴史上で終焉の黒殲龍たった一頭しか確認されていないんだよ」


「‼」


「……ッ」


「じゃ、じゃあ、目撃情報がマジなら、本当に……」


 本当に、──〝終焉の黒殲龍〟が再び現れたのか。


 想像したゼデルは自身の背筋が冷えるのを感じた。


かのドラゴンの行った破壊の記録、その規模から推測出来る強さは、現在の人類の戦力で到底太刀打ち出来るものではないはずだ。


 大英雄がいなければ間違いなく人類は〝終焉の黒殲龍〟に滅ぼされていたとされ、現在の有識者の誰もがその結論を肯定している。


 四百年前にはジーク=フリードという規格外の戦士がいた。


 しかし、その大英雄はもう存在しない。


「(もし、本当に〝終焉の黒殲龍〟が現れたとしたら、この世界は──)」



「──なんてな。冗談だよ、冗談」



「……え?」


「黒いドラゴンっぽいもんの目撃情報があったらしいって話は確かに聞いたが、それ自体も信憑性が疑わしい話だ。真に受けんなよ」


 この話題を切り出した生徒はそう言って笑った。


「じゃあ〝終焉の黒殲龍〟は……」


「有り得ないだろ。そもそも、記録では黒殲龍は大英雄に跡形も無く消し飛ばされたって話じゃねぇか。もし黒いドラゴンの目撃情報がマジだとしても、〝終焉の黒殲龍〟じゃない別の黒いドラゴンだろ」


「お、お前、さっき自分でそれを否定しておきながらっ」


「ははっ、騙される方が悪い。未確認のドラゴンくらい、この世界にはいて当然だろ」


 先程の重苦しかった場の空気は一変し、一同は安堵した様子を見せる。


「き、肝冷やしたぜ……」


「ああ、冗談で良かった…」


「……あれ? じゃあ先生達は何で王都に召集されたんだ? まさか、国がそんな眉唾な噂話を真に受けたのか?」


「そりゃないだろ。多分、二ヵ月後にある騎士学校との対抗戦関係の会議とかじゃないか」


「あぁ、なるほど。それならありそうだ」


 教員が王都へ召集された理由の推測にも一同は納得した。


「にしても、マジで黒殲龍なんて現れたら洒落になんねぇよな」


「ああ、それは間違いねぇな。どんだけ世界中から戦力を集めたって、多分黒殲龍は討伐出来ないだろうしな」


「四百年前に黒殲龍を討伐した英雄の子孫も、だしな」


「全くだな、はは。ほんと、何で大英雄の子孫があんなのなんだろうな」


 と、再びアルフォンスに対する誹謗に火が付いた。


 雑談をしていようと、何をしていようと、何かにつけて無理矢理アルフォンスへの誹謗中傷に繋げて嘲笑する。


 それが、テッドらにとっての日常であった。


 ……そして、普段と変わらぬ日常を送っていたのはテッドらだけではない。食事を摂っている生徒、授業の予習復習を行っている生徒、友人と談笑している生徒。


 食堂内には、生徒達にとって何の変哲もない日常が広がっていた。


 ───しかし、突如としてその日常は崩壊した。


 普段と変わらぬ学園の食堂を襲ったのは、突然の爆音と衝撃。


 食堂の壁が突如として凄まじい勢いで爆発し、そこには巨大な穴が空いた。



 生徒達の悲鳴と困惑の声が上がる中、壁に空いた巨大な穴から姿を見せたのは──だった。


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