第23話 アルフォンス=フリード

 

  

 クロフォード魔術学園内の第一演習ルームにて、二年Aクラスの生徒達は模擬試合を行っていた。


 演習ルームに八つ用意されている模擬試合用のフィールドのうちの一つ、他の生徒とは明らかに一線を画する規模の戦闘を行っている二人の生徒がいた。


 一人はユフィア・クインズロード。クロフォード魔術学園第二学年序列一位のS級魔術学生である。


 もう一人はアルフォンス=フリードという名の第二学年序列二位の男子生徒であり、ユフィアと同じく学園史上僅か三人しか存在しないS級魔術学生の一人である。


 現在学園内で二人のみのS魔術学生であり、学年だけでなく学園内全体でもそのまま一位と二位の実力を誇る二人の模擬試合は、まさに他のAクラスの生徒とは次元の異なるものであった。


暴虐の碧水龍グラオザーム・シュトルーデル


 フィールド内にて、龍を象った巨大な水の魔術が放射した銀髪の女子生徒、ユフィア・クインズロード。


巨人グロースの雷拳・ツー・ヴォルトッ」


 対面するユフィアと同時に詠唱を行い、魔方陣から巨大な拳を象った雷の魔術を彼女に繰り出したのは金髪の男子生徒、アルフォンス=フリード。


 繰り出された水の龍と雷の拳は両者の中間地点で勢いよく衝突した。それに伴う衝撃派は二人の髪や戦闘服を大きく靡かせ、大地を震わせる程の轟音をフィールド内に響かせた。


「はあっ‼」


 始めはユフィアの繰り出した「暴虐の碧水龍」がやや押し気味であったが、アルフォンスの掛け声と共に、更に魔力を注ぎ込まれた「巨人の雷拳」は強烈なプラズマ音を上げながら威力を増し、水の龍を押し返した。


 それに対抗する様にユフィアも更に「暴虐の碧水龍」に魔力を注ぎ込んで雷の拳を押し返し、再び両者の中間地点で拮抗状態となる。


 両者が相手の魔術を押し返す為に自身の魔術に魔力を籠め続けると、同じタイミングでそれぞれの魔術が最高火力へと達した。


 すると、術師から絶え間無く注ぎ込まれ続ける膨大な魔力と、衝突し合う相手の魔術との圧力に耐え切れず水の龍と雷の拳はその形を維持出来なくなり、大量の水と強力な稲妻が爆音を響かせながら同時に四散した。


 二つの魔術の爆発は常人を軽く吹き飛ばす程の爆風を生んだが、それに一切動じる事なくアルフォンスとユフィアはお互い続けざまに魔術を繰り出す。


暴風タオゼンの千刃ト・ラーゼン


旋風ヴィント・ホの滅槍ーゼ・ツェアライセン!」


 ユフィアはその一刃一刃が鋼鉄を容易に切り裂く程の威力の風の刃を無数に繰り出し、アルフォンスは凄まじい旋風で生成された一本の巨大なランスを繰り出した。


 アルフォンスの繰り出した風の槍はユフィアに向かって前進していたが、その刀身に強烈な無数の風の矢を浴びせられ勢いが塞き止められた。


「旋風の殲滅槍」の表層は「暴風の千刃」を受けるたびに徐々に削られ、無数の炸裂音が鳴り響いた末に風の槍は砕け散った。


堅牢なる鋼岩壁フルメタル・シールド‼」


 自身の魔術が消滅した直後、アルフォンスは前方の地面から磨き上げられた鋼鉄のような壁を作り出し、「旋風の殲滅槍」で相殺しきれなかった風の刃を凌いた。


「堅牢なる鋼岩壁」の表層を僅かに削られながらも、「暴風の千刃」の全弾を防いだアルフォンスは「堅牢なる鋼岩壁」を展開したまま次なる手を繰り出した。


鋼岩の一撃ハンド・オブ・シルバー!」


 詠唱と共にアルフォンスは「堅牢なる鋼岩壁」の中央から巨大な拳を繰り出した。


緋色の一撃ハンド・オブ・スカーレット


 対するユフィアは自身の全身を軽く覆うほどの魔法陣を展開し、紅く燃え盛る拳を象った灼熱の岩石を繰り出した。


 巨大な二つの拳が衝突すると、耳を劈くような爆音と共にそれらは同時に四散した。


 二つの魔術の爆発によって発生した尋常でない熱風が吹き荒れる中、二者は再び魔法陣を展開する。

 だがしかし、その直後。


連続した甲高い金属音がフィールド内に鳴り響いた事で、その一手一手が天変地異の如き攻防は終りを迎えた。


 フィールド内に鳴り響いた金属音は魔力を動力としてベルを鳴らす機械仕掛けの装置によるもので、五分計の砂時計の砂が全て落ち切った瞬間にベルを鳴らす仕組みとなっている。


 それは五分間と定められている模擬試合の終了を告げる為に使用されているものであった。


 ベルの音を聞いた二人は展開していた魔方陣を消滅させ、互いに戦闘態勢を解いて歩み寄った。


「ハァ、ハァ……。有難う御座いました……」


「有難う御座いました」


 全身に汗を滲ませて息を切らしながら試合後の挨拶を行ったアルフォンスとは対照的に、ユフィアは普段通りの無表情まま、ただ淡々と挨拶を行ってフィールドから退場した。


 息を整えつつ、額から顎まで流れる汗を袖で拭うと、アルフォンスもフィールドから退場した。


 

 模擬試合の授業が終わり、アルフォンス=フリードが更衣室で制服に着替えていると、同じ更衣室内で着替えを行っている二年Aクラスの男子生徒達の会話がアルフォンスの耳に入る。


「見たかよ、今日のアルフォンスとクイーンの試合」


「勿論見たさ。いくら何でも、あれはあんまりじゃないか?」


「ああ、あれは酷いモンだな! クイーンはまだまだ余力を残してる感じだったのに、アルフォンスの奴があんまりにも必死でさぁ!」


「試合後なんて、クイーンは涼しい顔してんのにアルフォンスがバテバテになって挨拶するもんだから思わず吹き出しちゃったぜ」


「どの魔術も殆ど打ち負けて、良くて相打ちなんて。本当情けない野郎だな」


「全くだ。あんだけ血統に恵まれておいてあの有様だなんて、大英雄の子孫が聞いて呆れるな!」


「救世の英雄もあの世で嘆いてるだろうなぁ……。自分の子孫があんなに情けなくっちゃな」


「「「はははははは」」」と、男子生徒達の下卑た笑い声が更衣室の中に響いた。


「……」


 それらは偶然アルフォンスに聞こえたものではなく、男子生徒達がわざとアルフォンスに聞こえるように話していたものであった。


「(全く、その通りだよな……)」


 男子生徒達の会話を聞いたアルフォンスは、怒るでも何か言い返すでもなく、ただ自嘲するように苦々しく笑いながら制服に着替えるだけであった。


「……」


 着替え終えたアルフォンスはその内心に影を落としながら、未だ彼への嘲罵が続く更衣室から退室した。

 明らかに暗い表情で更衣室を後にしたアルフォンスを見て、彼への嘲罵を行っていた男子生徒達は、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべていた。


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