第21話
―― 面白い
冒険者ギルド二階、西日が差し込む窓際でヤコウはゆっくりとページを捲る。それはこの街の成立からの歴史を簡単に纏めた物であった。ノインと出会った日に馬車内で軽く話を聞いていたのだが、改めて調べてみればなかなかに面白いものであった。
始まりは今は街の中心にそびえる一つの塔。
世界に存在するダンジョンと呼ばれる迷宮。散発的に発生するそれは魔物の巣窟であり、それと同時に宝の山であった。魔物から素材や鉱石は勿論、魔物から採取できる魔石は優秀なエネルギー資源であった。そんな事もありダンジョンの数やその質は国力と密接な関係にある。
そして今はトライアズと呼ばれるこの場所に発生した塔の形のダンジョンは世界的にも珍しい形であり、定期的に構造の変わるそこには豊富な資源が見受けられた。では、そんなダンジョンが発生したのはどこの領地だったのか。それは何かの必然なのかか、偶然なのか東はルクレア家が所属しているクロデリア王国、西にテリニウル聖国、南にカイレント共和国、北にガルドニクス帝国、その四ヶ国がそれぞれに睨みを利かす緩衝地帯であった。
そして当然起こるのは所有権の主張、その結果は戦争。小競り合いであったそれはそれぞれの周辺国も巻き込むようなさながら世界大戦とも呼べるそれに変わりつつあった。しかし、それは大陸中を巻き込む大火となる前に意外な形で幕を引くことになった。
それはギルドの存在であった。ダンジョンと呼ばれる宝の山、鉱山開発と共に周囲に町が出来るのと同じように宝を求めて、冒険者が、利益を求める商人や職人達が自然と集まるようになっていた。
塔の周辺は戦争の真っ只中ではなかったのか? 小さな小競り合いはあったが大きなものは避けて行われていたのだ。理由は簡単であった、各国それぞれ各ギルドを敵に回したくなかったのだ。もし魔法の一つでも何処かのギルドの関連施設に当たってしまればそのギルドを敵に回すことになる。そしてそれを口実に他の三ヶ国から非難でもされてしまえばその国はこのレースから脱落することになりかねない。
そんな思惑のなか徐々に集落の様だった集まりは村の様にと徐々に広がりを見せていく。そしてある日、四ヶ国にある報が届くのだ。
このダンジョンの周辺はギルドが運営する独立地とすると。
そして四ヶ国の代表が一同に塔の真下に集まることになる、そこには四ヶ国の代表だけでなく冒険者、商人、職人ギルドの代表者の姿が。そこで各ギルドの代表から告げられたのはこの独立が認められない場合、それぞれのギルドは認めない国から手を引くというものであった。
はじめに共和国が、次に聖国、王国と続き最後に帝国がそれを認める調印を行った。正直に言えば各国共に戦争を続ける事に疲れていた、それぞれに落としどころを探していた最中の事で渡りに船といった所だったのだ。
結果、各ギルドの本部と呼ばれるものがこの地に置かれる事になる。それだけでなく四ヶ国と希望する国家の大使が在中する大使館もおかれる事になり、それぞれの代表が話し合い運営していく共和制の形をとるという所を落としどころとした。
そして今でも独立地として国からの干渉を良しとしない多くのギルドがこの街に集まりその規模を大きくしている。トライアズの紋章は始まりの三つのギルドを象徴とする剣と硬貨と金床が描かれてる。
ぱたりと閉じて窓の外を見れば、薄暗いオレンジ色の空。ヤコウはグッと伸びをして先ほどまで読んでいたそれを本棚に戻して部屋をでる。
「さて、今日はこのあとどうしようか」
ドートレス達をさそって飲みに行こうか、カリムと食事にでも行こうかと足取り軽く日が落ちていく街へと消えていくのだった。
異世界百鬼夜行 異世界転生は妖怪を添えて 珈琲飲むと胃が痛い @datth
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異世界百鬼夜行 異世界転生は妖怪を添えての最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます