虚言 -小袖の手- 1
名前のも無いような寒村、そこで二人は出会った。
小さな村だ、家が近く幼少の頃から兄妹の様に育った二人。
きっかけはあの時だろう。それは小さな緋色の髪飾り、はした金で買えてしまう安物の髪飾り。それでも少年にとっては初めて出た猟の成果と引き換えにした物だった。妹の様に思っている少女に少年はぶっきらぼうにそれを手渡した、初めはきょとんしていた少女、それが自分への贈り物だと理解すると破顔し、慣れない手つきで髪に付けた。少しずれた髪飾り、くるりと回って見せた少女の笑った顔がなんとも愛おしく、ぽつりと普段口にしないような賛辞の言葉を呟いた。
少年の言葉に少女はボッと頬を赤らめた、兄の様に慕っていた少年からの贈り物だけでも嬉しいのに、そんな風に思ってくれたのかと。
少年もそんな少女の様子に頬を赤らめた、頬を赤くし上目遣いでちらちらとこちらを伺う少女がなんとも愛らしく思えてまった。
兄妹であった二人はこの時を境に互いを異性として想う様になった。
本人達も周囲もこの二人は所帯を持つものだと思っていた、あの時までは。
この世界ではよくある悲劇、それによって二人は引き裂かれた。
彼等からしたら関係のないような貴族同士のくだらないプライドによって起きた争いにより少年は戦場に立つことになる。運が良かったのか才があったのか少年は生き残った。少年の父は、敵の矢によって、少女の父は平民の命をなんとも思わない貴族の魔法の巻き添えとなってその命を散らした。
気が付けば同じ村の出身は少年、彼だけであった。
せめて彼等の遺品だけでもと、片手で収まる程度のそれと少しの金子を持って村へと帰った彼の目に入ったのは無残に打ち捨てられた無人の村。いたるところのこる争いの跡に彼は何がおこったか察し声を上げた。
どれくらいの時がたったのか、少年は青年となっていた。
彼は冒険者と言われるものとなっていた、その姿はまるで死に場所を求めるようにただただその命を燃やしていた。
「たまには付き合え」そう言われて、連れていかれたのは娼館と呼ばれる場所であった。彼を心配していた先達が女性を知ればと少しは落ち着くのではという何とも言えない気の使い方をした結果。
放り込まれた部屋、何とも言えない甘い香りが鼻をくすぐった。どうしたものか、どうやってこの場を切り抜けるかと言うのが彼の頭をぐるぐると回る。部屋で待機していた女性に目を向けずベットに腰をかけると思わず深いため息が口からもれた。
「こういったところは初めてですか?」
ベッドが小さく沈む。肩に触れるか触れないかの距離に熱が伝わり、むずがゆい感覚に少し距離をとる。
「すまない。無理やりつれてこられてしまって。金は払うけど何もしなくても」
彼はそう言って、女性に顔を向けた。心臓の鼓動が一瞬止まったかと思えば次の瞬間には早鐘の様に煩く鳴る。過去の甘い思い出、もう触れる事の出来ない思い出の少女の面影がそこにあった。
思わず思い出の少女の名前が口から零れた。
その言葉を掬い取るように、少し間を置いて女性の口から思い出の中、少年
であった彼の名前が告げられる。
ただ女性の声は酷く震えていた、そして女性の顔には深いかげが落ちていた。それは部屋の薄暗さが落とした影なのか、その心持から落とした陰なのか。
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