アイ・ラブ・ユー

米太郎

第1話

私はため息をついた。なぜなら恭子が服を脱ぎだしたからだ。


「あぁ!!もうむしゃくしゃする!行くよ!里美!」


部活終わりの夜の高校。体育館を出ると隣にプールがある。部活が終わると同時に、恭子はそう言うと、プールのフェンスを登り出す。


「…毎度思うのですが、順番が逆なのではないですか?プールサイドに着いてから服を脱いだら良いですよー。」


呆れながらも、私も恭子の後を着いてプールのフェンスを登る。


一足早くプールサイドに着いた恭子は、そのまま走ってプールへと飛び込む。

恭子は総体へも出場する高校のバスケ部エースだ。運動神経が良く、そしてスタイルも良い。飛び込む姿はとても絵になる。


「ああーー!!やんなっちゃう!!あたしだって女の子なんだぞーー!!」


浮かび上がってきた恭子は叫んだ。


「どうしたどうした?何か嫌なことがあると、いつもプール使って。プールさんの懐はそんなに広くないぞー。私が聞いてあげるよ。言ってみな?」


ゆっくりフェンスを降りてプールサイドに着いた私は、制服のまま飛び込み台に腰掛けた。


「…私って、魅力ないかな?」


そんなことは無い。バスケ部エースだけあって運動神経はずば抜けて良いし、顔だって整っている。スタイルも良いし、性格も良いのを私は知っている。


「恭子は魅力的だよ?あれでしょ、どうせまたフラれたんでしょ?」


恭子がプールへ来るパターンは2通りしか無い。

バスケの試合に負けた時か、フラれた時だ。

今日のバスケ部の調子は良かったから、原因はフラれたことしかない。


「うぅーー。あっちから告白してきたのに、まだデートもしてないんだよ?今週部活が忙しかったから、メールあまり返せなかったけど…、そんなことでフルのは酷くないですか?一日数回だけどメール返したりして、私だって少し舞い上がってたりしたんだよ?」


恭子はしょんぼりとプールから上がってきた。

夜の月に照らされた長い四肢はとても綺麗だ。

下着で勢いよく飛び込んでいるので、多分今上も下も透けているのだろうが、月明かりではハッキリとは見えない。


「恭子さん、夜は男子がいないからといっても、高校生女子がブラとパンツを透けさせて歩いているのはちょっとまずいですよ…。」


「いいじゃない。今の私は誰のものでも無いですよー!」


そう言うと恭子は私の隣のレーンの飛び込み台に腰掛けた。


「里美、いつも付き合ってくれてありがとう。」


ドキッとする。

強気だった恭子がいきなり優しくなると、こちらも少し気持ちがおかしくなる。


「はぁー。男なんてこの世から消えてしまえばいいのに。」


またいつものように強気な口調でそう言うと、バタバタと足を動かし、プールの水面を揺らす。


「…女の子も大概だよ。」


私はポツリとそう呟く。


「…里美は順調なの?彼女とは?」


恭子は少し気を使って、私に聞いてくる。


「私も最近別れたよ!美香…水元さんはやっぱり男の子が好きなんだってさ!」


私はレズビアンだ。女の子が好きだ。

恭子にしか言っていない秘密。

中学生では男の子と付き合ったこともあったが、男の子に対しては胸のドキドキが生まれないのだ。

一方で、可愛い女の子を見ると胸がドキドキして、…キスとかしたくなる。

男の子にはそういう気持ちが芽生えないため、私はレズビアンなのかと最近気づいたのだ。


「水本さんはそうだったんだね…。そういうこともあるよ!私と同じじゃん!むしゃくしゃしたら飛び込んじゃえ!」


そう言うと恭子は私の背を押した。


「ちょっ!私制服着たままなんですけどー!!」


押された勢いでプールへ落ちてしまう。

勢いよく落ちたため、頭で1度潜るかたちとなり、全身がびしょびしょだ。


「ちょっとーー!!恭子何してくれてるんじゃー!!」


私は飛び込み台まで近づくと、恭子の足を掴んだ。


「ふふふ、さすがの恭子でもこれは無理でしょ!」


恭子の足を少し引っ張り、体制を崩させる。

全力でやってしまうと事故に繋がってしまうと思い、ちょこっとだけ引っ張る。


「わー!!里美ー!!ばかーー!」


恭子は少しよろけたが、持ち前の運動神経でバランスを保って、プールへは落ちなかった。


恭子は飛び込み台の上に立ち私を見下ろす。

私もこんな容姿があれば、人生違ったかもしれないと思う。こんな容姿で男の子からモテれば、普通の人生を送れたかもしれない。

見下ろされることで、自分が負け組みに属するものだと感じさせられる。


「もう、上がっておいで?制服濡れちゃったから乾かさないとだよね?」


「誰のせいよ!まったく!」


私は恭子にプールサイドへ上げてもらう。

プールサイドへ上がらせてもらっても、私の人生は負け組みのままだろう。


恭子は私の手を離すと、ふと空を見上げる。


「…月が綺麗ね。」


恭子がそう呟く。


「…私にとってはずっと綺麗でしたよ。」


私は声をかけた。

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