第13話お菓子職人と対決
「はぁ……そこまで言うなら私は何も言わないわ。スヴェもユーサーもリンダも迷惑だけはかけないように……ダメって言われたら諦めるのよ」
シルヴィアは諦めたような口調で、俺達の行動を黙認するようだ。
「「「はーい」」」
三人とも元気のよい返事を返すが、三人とも言いつけを守るつもりなど毛頭ない。
誰だって美味しい物を食べたいと思うのは自然な事だ。
俺達三人は、俺専属の
………
……
…
「シルヴィア様よろしいのですか?」
アイリーン夫人は声を上げた。
「えぇ。ユーサーは間違いなく天才よ? でも、何でもできるせいで理不尽や失敗をまだ知らないもの、挫折や理不尽を味わうには、丁度いい機会だとは思わない?」
「え?」
アイリーン夫人は驚きの余り、気の抜けた声を発してしまう。
「失敗しても恥ずかしくも何ともないモノなのよ? 料理人達には申し訳ないけど良い経験になるわ」
アイリーン夫人はこの時初めて理解した。
普段はおっとりとした雰囲気を持つ上級貴族の女性と言った態度だが、その胸の内にはしっかりとした貴族らしい考えを持った腹の黒い一面を今、垣間見える事が出来た。
このおっとりとした雰囲気の女性がどうやって、次期公爵家当主の嫁に収まったのか? と思っていたがこういう一面がちゃんとあるのなら納得も出来る。
「私もそう思います。ユーサー様は立って歩くことも、古語や外国語、数学に至るまでのあらゆる物事をとてつもない速度で歩んでおられるお方。乳母として私が出来た事など、母乳を与え娘のリンダを側に置いてあげただけ……申し訳ない限りです」
「そんなことは無いわ。アナタが居るお陰で、ユーサーも自由にその天上より授かった才覚を遺憾なく発揮できたのだから、まぁこの程度の障壁なら、今のあの子なら問題なく乗り越えられるとは思わない?」
シルヴィアはアイリーンに同意を求めた。
「えぇ、ユーサーなら新時代を築く事も出来るでしょう」
アイリーンもシルヴィアに答える。
ユーサーの知らない所で、大人たちの期待は高まりまくるのであった。
………
……
…
「――――と言う訳で、今この屋敷で提供されているお菓子は、甘すぎると思うんだ。だから砂糖を減らした……素材の味を活かしたお菓子を作って欲しいんだ」
俺は子供ながら一番身分の高い者として、
「ダメです。私は公爵家にお仕えする菓子職人です! 例えば
しかし、私は公爵家の皆様に相応しい品位あるお菓子を作る事を求められています……素材の味を活かしたと言えば聞こえは良いですが、他の貴族から舐められてしまいますそんな砂糖をケチった物を貴族の菓子として、公爵家の皆様に食べさせるわけにはいきません」
アルベルトの取り付く島もない態度には、それ相応の理由がある事も分かる。
前世の俺は武士や貴族の事を「品位を持った賊」と思っていた。
武力を背景に成り上がって暫くすると、今まで必要なかった品格も必要になって取り繕うようになる。これが「体面を保つ」という事だ。
民草の暮らしを自らの肌で感じ、民草の暮らしを憂う父パウルでさえも領民を守るためには、その家格に相応しい暮らしをしなければいけないのだ。
例えそれが、歯が痛くなるほど甘いお菓子でもだ。
「では僕がお菓子を作りましょう。
俺はそう言ってこの中で一番立場の弱い。
彼女らの主な仕事はお茶を入れる事だが、簡単な焼き菓子の用意もできて、
「「「ひぃ――――!」」」
高位貴族の子供の無茶振りに思わず。
「ユーサー様!
ご自身でお菓子を作ると申されたのなら、その言葉を曲げず自分だけで成し遂げて下さい」
「分かったよ。スヴェータはビスケットを焼く事は出来る?」
「旅の道中でパンとかは焼いた事あるよ。クッキーとかは何回かだけだけど……」
「分かった。じゃぁここには用はないね。アルベルト邪魔したね」
俺はそう言って、
「ねぇ、ビスケットはどうなったの?」
――――とリンダが喚いているが、「大丈夫。僕が何とかするから……」と言って頭を撫でてやると、「うん。ユーサー大好き!」と言ってハグをしてくれる。
前世で散々見聞きした情報と漫画やアニメのお陰だろうか? 否。リンダがチョロいだけだな……
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【あとがき】
まずは読んでくださり誠にありがとうございます!
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