第12話頑固な夫人を説得しよう
美味しいお菓子と聞いて、リンダはテンションが上がっているようで……
「手伝う! 何すればいい?」
――――と言って、真っ平な胸を張って張り切っている。
胸を張るならせめて第二次性徴以降にしてくれ……とユーサーは思った。ユーサー 彼は巨乳派だった。
コレは絶対俺に被害がおよぶ奴だ。そう思ってシルヴィア母様とアイリーン夫人の方をチラリと見る。
二人とも俺に「この状況を何とかしてくれ!」と言う、熱い視線を送っている。
アイリーン夫人には「アンタの娘だろ!」と言う気持ちが、シルヴイア母様には、「お前の友達だろ!」と言う気持ちがある。
正直に言って三つの子供に何を期待するのか? とは思うものの、この国の貴族が受けるべき教養をほぼ全て理解し習得ているのだ。
大人……と言うか「貴族の立場を
「はぁ……」
俺はため息をつくと、スヴェータとリンダの方を見てこう言った。
「我々貴族は人々に敬われるため、権威を示さねばなりません。
従って、砂糖を減らしたお菓子を安易に食べてしまうと、他の家から舐められかねません」
「う゛っ……確かにそうかも……」
スヴェータは、一定の理解を示してくれる。
しかし……
「けんい? あんい? なめられる? そんな事より私は、美味しいお菓子が食べたいな……」
リンダの説得には失敗してしまった。
まぁ三歳児に分かるような言葉を使っていないからな……
シルヴィア母様とアイリーン夫人の方をチラリと見ると、「あともう一押し!」と言った表情を浮かべている。
「しかし、それは現在の価値観での事。
洋服と同じように食文化にも
お母さま、アイリーン夫人はご存じでしょか?」
俺はこの世界で読んだ。平民の旅行記の内容を思い出して喋る。
「この国だけではなく貴族の老齢のご婦人方や男性には、馬に乗れないのほど太った方が大勢いて、平民達からは肥満の事を別名『貴族病』や『贅沢病』と呼び、太った紳士淑女の方々を『青い血をした血統書付きの白豚』と呼んでいる事を……」
「確かにそれはそうだけど……」
貴族と言う立場を捨て、一度野に下り冒険者としてこの国を……世界を見て回って来た。シルヴィア母様にとっては見て来た世界の話なのだろう。
ここで意見を変えられないのは、貴族以外の立場を経験したことのない。アイリーン夫人だけだ。
「ユーサー様それでは、この公爵家が貴族から舐められるのは変わりませんよ?」
「えぇ、ですから新しいお菓子として宣伝すればよろしい。
アイリーン夫人を馬鹿にするつもりはないのですが……」
俺は予め予防線を張っておく……
「夫人のように「高級品とはこういうものだ!」と物の価値を測る力……この場合は自分の意見と『舌』を持っていない惰性で生きている貴族は多いハズです。」
アイリーン夫人は、俺の言葉にㇺっと表情が強張った。
目鼻立ちのハッキリとした顔立ちのせいか怒った表情は迫力満点だ。
「伝統だの文化だのそんな事はどうでもいい!。
大事な事は自分自身で決めればよろしい。
文化だの伝統は新しい形態に最適化されて生き残っていくもの……砂糖を取り過ぎれば健康に悪いのは一目瞭然、砂糖を減らし素材本来のおいしさを味わう文化を作れば、そんな有象無象の意見など黙殺できるようになるでしょう」
「ユーサー様が、そこまで自分のお考えをお持ちであれば、好きにされればよろしい。ですが私は忠告した事だけは覚えておいてください」
「えぇもちろんです」
「でもユーサー、やった事無いから分からないと思うけれど、お菓子を自分で作るのは難しいわよ?」
簡単なクッキー程度しか経験のない。シルヴィアでもお菓子作りが難しい事は理解できる。
だからシルヴィアはユーサーを窘める。
「もちろん自分では作りません。砂糖控えめのお菓子を
「確かに
「えぇ、先ずはケーキは材料も多くもったいないので、ビスケットを作ろうと思います。素材を活かしたバター香る香ばしいビスケットで、アイリーン夫人を納得させて見せましょう!」
「「「おーっ!!」」」
俺達三人は、頑固な大人達を納得させる為に、見栄だけではない。本当に美味しいお菓子を作る事を決めたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます