7章181話 親族
雪たちが族長と会っている頃、化紺は一人森の中を歩いていた。
「この道を歩くのも久しぶりやなぁ」
懐かしむようにそして寂しそうに言葉を溢す。
しばらくするとコケや草を纏った一軒家が見えてきた。
そう、かつての化紺の家。他愛無いされど幸せな思い出の詰まった宝箱であった。
ゆっくりと家に歩いて行きドアノブを回す。中に入り見渡すと一つ一つから昔の思い出が溢れる。
「意外と……綺麗なもんやなぁ」
両親がいなくなった後、一人過ごした数年は化紺にとってとても辛い出来事。しかし、こうして見てみると部屋の中は綺麗なままで過去の苦しみなど感じさせない。
「ただいま…」
帰りの挨拶は誰もいない家中にこだます。しかし、誰も返事は返さない。両親は帰らない。過去は帰ってこないのだから。
しかし、それに反応したかのように背後の玄関の扉が動いた。
「っ!!」
あり得ない?あるわけが無い。それでも、と化紺は振り返った。
そこには長い耳、金色の長髪、高い背の男が立っていた。
「…………何しに来たんや、リージュ」
高まった仮初の希望の分、落胆混じりに警戒する化紺が見た先に居たのは雪たちを案内したエルフだった。
「今更何しに来た。獣混じり風情がこの里に来たところでどうなるかなどわかりきっていただろう」
「相変わらずで安心したわ。言われんでも雪たちの用事が終わったら帰る」
「人里に降りた獣はしっかり飼い慣らされたと見える。大人しく飼い主の元に帰るといい。あの者たちは俺が送り届ける」
鋭い眼光で互いを睨みつける両者は相容れない想いを持ち意思を確認した。
もはや問答は不要と踵を返し戻ろうとするリージュと呼ばれたエルフ。
「…………お祖母様は元気か?」
「未だ息災で在らせられる。あの方がいなければこの里など………ッ!?」
「リージュ!?」
急に咳き込みうずくまるリージュに駆け寄ろうとした化紺。だがすぐに立ち上がったリージュは振り返りもせず「すぐに立ち去れ」と言い残し去っていった。
「我らにできることはないのでしょうか?」
「申し訳ございません。世界樹は我らの聖域。例え魔防隊の方でも入れるわけにはいきません」
「ですが!」
父さんが族長さんと世界樹を治すにはどうすればいいか議論してから1時間くらい経った。でも、一向に話が進む様子はない。
「我らエルフでさえ入る事はありません。巫女以外は」
「巫女?」
ここに来て初めて聞く単語が聞こえてきた。巫女と聞くと神社とかの神職とかだ。やっぱりそう言う感じの人がいるのか?
「その巫女はどちらに?」
その巫女と話をさせてもらいたいと父さんが族長さんに話すが首を振られてしまう。
「里の巫女は数年前に消息を断ちました。会う事は困難でしょう」
「そんな……」
あれ?その話何処かで……
「この里にはあの子の案内できたのでしょう。ならば両親のことは聞いたのでしょう?」
「まさか」
「彼女の母こそ最後の巫女なのです」
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