7章180話 現実
化紺先輩案内の元、道なき道を歩いていく。何か目印があるわけでもないのにサラサラと歩いて行くのは純粋にすごいと思う。
「たまに里帰りとかしてたんですか?土地勘があるように見えるんですけど」
「ん〜いや?ここには里を出てから一度も勝てないなぁ。何となくこっちかなって」
まさかのテキトーだった。それでも自信ありげに進んでいく化紺先輩についていくしかない。
「そういえばエルフは植物の声が聞こえるとか噂で聞きますけどもしかしてあなたも?」
隊員の一人がそう質問する。それに反応して振り返った先輩は少し困った顔をした。
「声…‥は聞こえんな。なんて言うか……そう!虫の知らせってやつな。あんな感じや」
「なるほど、それで何となくなんですね」
そんな話をしていると急に父さんが手を横に出して止まった。
「隊長……」
「うん、どうやらお迎えみたいだ」
話している二人の話を聞いても何のことかわからない。化紺先輩も同じようでキョロキョロして周りを見ている。
「我らは魔防隊!世界樹並びにエルフの里の危機と知り駆けつけた!姿を見せてくれないだろうか!」
父さんが上に向かって声を張り上げた。何でそんなに声を大きくする必要が……?
そんなふうに考えていると近くにあった木の一本から人影が落ちてきた。木陰から出てきたその姿はまさしく。
「エルフ……もう近くに来てたんだ」
「貴様らが結界に入った時から監視をさせてもらった。人族に手を借りるのは遺憾だが族長の指示だ。来い」
何だあの態度。メチャクチャ上から目線で話してくる。シェリンさんと比べてしまう分より鼻につくと言うか。
だけどそれに従って付いていくしかない。
大人しく付いて行こうとしたその時、
「獣混じりは来るな。悍ましきその姿をよく晒せたものだ」
降りてきたエルフは化紺先輩にそう吐き捨てた。
対する化紺先輩は諦めた顔で「気にせんと先行っといて」と進むように告げてくる。
あんな顔されると残りたくなるんだが。正直。迎えのエルフみたいな奴らばっかりなら行きたくない。
「雪、ここは堪えて。族長さんに挨拶はしないとだから」
「わかってるよ」
俺の内心を悟ってか父さんがついてくるように促してきた。
渋々案内に従って歩いていく。
段々と小さくなる先輩の姿がやはり気になって仕方がなかった。
「着いたぞ、ここが我らの里だ」
樹齢何年かもわからないほどに巨大な木に付いたツリーハウスや木のうろを利用した家他にも自然を利用した建物が立ち並ぶ幻想的な景色が広がっていた。
それでも遠くに見える世界樹は里にあるどの巨木よりも巨大だった。
「早速、族長様とご挨拶がしたい。案内してもらえるかな」
「あそこに見える一際大きい木が見えるな?あそこが族長様の屋敷だ。我らでさえ入るには許可がいるため入れん。既に貴様らは許可が降りている勝手に行くといい」
そう言って案内役のエルフは来た道を戻って行った。
「そう言う事なら勝手にさせてもらおう。とはいえ離れないように。総隊長がこの里との橋渡しとなっているからこそここに入れた。何かやらかすとそれすらパーになるから気をつけて」
全体に言ったように見えてこれは俺に対しての忠告だろう。もし父さんがいなかったら何かやらかしていた可能性は高い。何故なら……
「人族だ……」
「獣混じりに案内させたらしいぞ」
「あんな気持ちの悪い奴に!?早くいなくなってくれよ」
俺たちへの嫌悪感1割、それ以外は全て化紺先輩への嫌悪、迫害、罵倒。
そんなのを聞いているだけでここが嫌いになってくる。先輩は一人になった後こんな視線に耐えてきたのか。
族長の居る屋敷はツリーハウスになっていて外にある階段から登っていくしかない。
身体の調子が悪い今だと少しのぼるのがきつい。
「大丈夫?担ごうか?」
「大、丈夫。背負う姿なんか見られたら舐められるでしょ」
この里の連中みたいな性格の族長なら少しでも弱みは隠した方がいい。どちらが上かの判定は第一印象である程度決まるから。
そうして階段を登りきり、屋敷の玄関までやってきた。
「魔防隊の者です。族長様に挨拶に来ました」
「入ってきてください」
意外にも敬語で優しい雰囲気の声が中から聞こえてきた。
父さんが扉を開けると座敷に座る老年のエルフがいた。
「ようこそ、エルフの里へ。長旅遥々よくぞここまで。疲れたでしょう?座敷に座って話しましょう」
言う通りに座敷に座ると族長は現在のエルフの里の現状を話し始めた。
「母さんの方から伝わっていると思いますが世界樹は次第に弱り、朽ちてしまうと考えていました。それを何とかできないかと対策を色々試しては見たものの……結果は何も。それどころか」
「黒葉病が流行った」
「えぇ。世界樹から突如落ちてきた黒い葉。それに触れた者は立ち所に衰弱していきました。今やエルフの里の半数が病に侵されると言うのが現状です」
なるほどなるほど。まぁ概ね車の中で聞いた話と同じだ。ただ一つを除いて。
「母!?娘じゃなくて!?」
「はい。シェリンは私の母ですよ?」
シェリンさん、若作りし過ぎですよ……
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