7章178話 黒葉病

「枯れる……確かに大変ですけど私にできることなんてそうないですよ?」


 老人が言うには世界樹は世界の魔力の要らしいけどそれをどうにかできるような力は持ち合わせていない。


「それに関してはユグド様が何とかしてくれる筈だから貴女には世界樹まで言い方は悪いけど運ぶ役割をして欲しいの。それに……」

「それに?」

「あ、いや何でもないよ!現地には秋君も行くことになってるから安心してね」


 父さんが一緒なら安心だ。正直今のところ戦闘なんてできる気がしない。歩く走るとかは出来るけど能力とか使った時はかなりキツい。


「そう言うわけだから安心してね。あ、一応だけどこれ極秘だから綾ちゃん達にも内緒、だよ?」


 釘を刺してきた。確かにこんなこと他人に言っていいものではない。けど……きっと何も言わずに出て行ったら怒るだろうなぁ。


 


 それからエルフの森に行く日程などを知らされて父さんの車で寮に戻った。と言っても復学する為ではない。荷物を取りに戻っただけ。


 明日には出発するのだから。



「緋翠には来てもらわないとだよね……」


 寮にあった雪華を回収した後、緋翠を探しに行く。この時間帯なら食堂かな。


「緋翠ちゃん、そろそろ休んでもいいよ?」

「お母さんが帰ってくるまで手伝うの!一人じゃつまらないし」


 おぉ!流石我が娘。自主的に手伝いを買って出るとは。お母さん嬉しい!じゃなくて。


「緋翠ー!ただいま!」

「あ、お母さん!おかえりなさい!」


 小さな身体でトテトテと走ってきた緋翠は私にジャンプした。すかさずキャッチ。あぁ可愛いぃぃい!


「いい子にしてたみたいだね」

「うん!」

「京ちゃん、緋翠の面倒ありがとう」

「むしろ手伝ってくれて助かったよ。じゃあね、緋翠ちゃん」



 京ちゃんから緋翠を引き取って部屋に戻る。今の時間帯なら綾達も戻ってこないから部屋で話す方がいい。


 ただこの話は正直緋翠には何のメリットもない。行きたくないと言えば綾達に託して一人で行くつもりだ。パフォーマンスは落ちるけど雪華を使えなくなるわけではないから。


 きっとエルフの森でも何かに巻き込まれる。そんな予感はきっと現実になると思う。世界樹の神とか厄ネタを抱え込んでしまったから避けられないけど。


「緋翠。お母さん、また出かけないといけないんだ。どのくらいかはわからない。もし、緋翠が良ければだけど」

「私も行くよ?」

「もしかしたらこの前みたいに危険な場所にいくかもしれない。それでも行く?」

「うん!」

「そっか。わかった」


 緋翠は考える時間すらなく即答した。あんな目にあったのに行くと言ってくれた。きっと覚悟が足りなかったのは俺の方だ。大切な人を巻き込んでしまう、そんなことを考えていたから。


 でも、俺の知り合いはそんなこと気にしない人たちだ。なら信じよう。



〜翌朝〜


「一応聞くけど良いんだね?」

「うん。それに父さんがいるなら大丈夫、でしょ?」

「もちろん!二人とも僕が守るさ」


 父さんの運転する車で魔防隊本部へ向かう。その途中、緋翠は目を輝かせまくっている。そういえば緋翠が車に乗ったのはこれが初めてか。


「はやーい!見てみてギュンッてすれ違ってる!」


 緋翠の年相応の様子を見ていると安心してくるなぁ。張り詰めてた緊張とかも和らいでいくのを感じる。


「着いたよ」


 車に揺られることしばらく。再び魔防隊本部に到着した。本部に入ってすぐ、昨日とは違い慌ただしい雰囲気を感じ、父さんの空気が変わった。


「急ごう、何かあったみたいだ」


 すぐにシェリンさんのいる総隊長室に向かった。


「失礼します」

「あ、やっと来た!申し訳ないがすぐにエルフの森に向かって欲しい。事情は向かう途中に聞いて」

「分かりました」


 急いで魔防隊の車に乗り込む。緋翠は他の魔防隊員が驚くので雪華の中に入っててもらうことにした。


「発車します!」


 大人数を運ぶ為の大型ジープに揺られながら隊員からの報告を聞いた。

 世界樹が枯れる兆候は以前からあったもののつい先日、落ちてきた葉っぱに触れた者が黒いアザを作り倒れると言う事件が起きたらしい。


「一刻も早く解決しなければエルフの森もエルフ達も全滅しかけます」

「確かに。触れても大丈夫だったものなどはいるのか?」

「いえ、皆一様に黒いアザを発現しました。仮の呼称として【黒葉病】と名付けられました」


 何となくあのクソッタレを思い出してしまう。黒いアザ、苦しむ人。怜達を苦しめた張本人を。


「そういえば案内人はどうした?森に入るにはエルフの案内が必須だろう」

「総隊長は動けませんし魔防隊には他にエルフがいませんから居ません。案内役のエルフも黒葉病に侵されました」

「なら一体誰が案内役を?」

「それはウチがしますんで心配しないでください。雪、久しぶりやな」


 助手席から顔を覗かせた人には見覚えがあった。いや、この人のことを忘れるわけがない。


「化紺先輩!?」


 以前、呪術師に乗っ取られ最近復学した先輩が何故か助手席に座っていた。

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