7章177話 総隊長
表向きにはダンジョン遭難事件として処理された俺たちの事件から数週間。
既に回復して退院した綾達は復学している。
そんな中俺はと言うと雪鬼の提案で門を開けたはいいものの試練に合格することができずに動ける程度にしかならなかった。
圧迫している爺さんの魂分を一刻も早く拡張したい所。だが……
「どこ向かってるんだ?」
「行けばすぐにわかるよ」
俺は父さんと共に車で移動していた。退院した俺を父さんが迎えにきてそのままどこかに連れて行かれている訳だけど……家でもない、まして学校ですらない。
「寝てていいよ。まだ本調子じゃないだろうから」
「ん、そうする」
動けるようにする為に精神的にも肉体的にもずっと起きている状態だったからすごく眠い。まして、試練の内容がとてつもなく消耗する者だったからなおさら。
「起きて。着いたよ」
「わかった……」
父さんが身体をゆすって起こしてくる。既に車は停車していてどこかの駐車場に居た。
外に出て固まった体を伸ばしていると真上に上がった太陽を直視した。
改めて周囲を見渡す。当然、周りは駐車場。ただ、正面に見える建物は遠くから見てもすぐに何の建物かわかった。
「ようこそ、魔防隊本部へ!」
父さんがわざとらしく大振りに腕を広げてそう告げる。
なぜいきなりこんなところに連れてこられたのかという疑問や来てみたかった場所に来た嬉しさが混ざっている俺に父さんは続けてこう言った。
「雪をある人がお待ちだから行くよ。きっと驚くと思うから準備しておいてね」
どうやら本部にいる誰かに合わせる為に父さんが送ってくれたらしい。でも、俺には本部の知り合いなんていない筈。そこまで俺に何か………いや色々事件に巻き込まれてるからそれか。それとも緋翠の戸籍改竄がバレたか!?まずい、それはひじょーにまずい。言い訳は皆無。分類としては緋翠は魔物だ。魔防隊がどんな反応をするのか予想がつかない。
「ぉーい、おーい」
「えっ何?」
「何じゃないよ、もう部屋に入るからしっかりして」
気がつくと目の前には総隊長室と書かれた扉があった。ある人ってトップオブトップ!?終わった……処罰でも何でも回避不可だ。どこでファンブルを引いたんだ?
「失礼します」
「はーい」
中から女の声がして父さんは中に入る。続いて俺も。
「現在総隊長は外出中ですのでしばらくお待ちください」
おそらく秘書官だろうか。緑色の髪、ピンと伸びた耳そして端正な顔立ち。エルフだ。少し幼いように見えるがそれでも俺の何倍も生きているだろう。
「総隊長?そう言うおふざけは後にしてください。雪は病み上がりなので」
「ごめんごめん、ついね。改めて魔防隊総隊長【シェリン】だよ」
「父さんがお世話になってます。血桜雪です」
さっきまでのピシッとした雰囲気から一転ものすごくフレンドリーな雰囲気になった。
「さて、さっさと本題に入りたいところなんだけどその前に」
シェリンさんはゆっくりと俺の前にやってきて
「申し訳ない。幻想図書館なんて代物学生に遭遇させてしまった。本来は魔防隊員ですら死を覚悟して対峙する魔物だ、よく生き残ってくれた」
深々と頭を下げた。
「頭を上げてください!?そ、その、シェリンさんのせいじゃないですし全員無事だったので」
「ありがとう。本題はこれに関係してることでもあるから君を呼んだんだ」
「私に?」
どうやって倒したかは報告済みだしそうなった経緯も既に伝わっていると思うんだけど。
「私が見た限りだと君は一つ隠していることがある筈だよ」
「別にそんなこと……」
報告していないことなんてあったかな。マミーの包帯で転移したこと、幻想図書館と呼ばれる場所のこと、そこで戦ったミイラの力、倒した方法。
全部話した筈………あ。
「あの、絶対変なこと言ってると思うんですけど神様っていると思いますか?」
現在進行形で俺の魂に居候している老人。幻想図書館を倒した時に入り込んできた奴は自分を神と言っていた。
もし言ってないことがあるとするならこれだけだ。だって自称神の老人が心の中に〜なんて頭おかしくなったとしか考えられないだろうから。
「もちろん。神はいるとも、ねぇ神殺しクン?」
「やめてくださいよ娘がいる前でそんな恥ずかしい名前」
「あれ?」
もっと「何言ってんのコイツ」みたいな反応が返ってくると思ったのに意外と受け入れられてる。と言うか神殺しって何?父さんいつの間に厨二病になったわけ?
「ち、違うんだ雪。父さんはそんな名前名乗ったわけじゃ……」
「えー?でも満更じゃなさそうな顔してたよね」
「あれは反動のせいです!!」
うん、父親の黒歴史なんて聞くだけ無駄だ。こっちまで恥ずかしくなってくる。
「もし、隠していることがそれなら心当たりは、あります」
「いいよ、続けて?」
「幻想図書館を倒した後変な球を見つけて気がついたら門のある場所に老人が居候してました」
「で、その御方はなんて?」
シェリンさんは期待に満ちたキラキラした顔でこちらを見てくる。正直なところ自分が荒唐無稽な話をしている自覚があるので話しにくい。
「せ、世界樹の神だとか言ってました」
「やった〜〜!やっと見つけた!」
俺の言葉を聞いたシェリンさんは飛び跳ねて喜びを表した。そんなに喜ぶことだったのか?
「ありがとう、これで何とかなる!」
シェリンさんは俺の手を両手で握ってぶんぶんと振りまくる。柔らかい感触にビックリしている間にシェリンさんの興奮はおさまったようだ。
「実はね魔防隊はある事件の解決に難航していたんだ。そこに君がちょうど現れてくれた!」
「事件?」
「エルフの森の大樹、【世界樹】が枯れ始めたのさ」
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