6章175話 見慣れた天井

 純白な天井を見上げて俺はまたここかとため息混じりに声を漏らす。


「見慣れた天井だ……」


 もはや何かあるたびに病院の天井を見上げるのがお決まりのようになってきた。他のみんなはどうなったかな。多分、俺が無事ということはーー


「お、起きたか。遅いぞ、雪」

「司、良かった無事みたいだ」


 病室の扉を開けて入ってきたのは司だった。所々に包帯を巻いているものの一人でスタスタ歩いてくる。

 そのまま俺が寝ているベットに腰掛けたのを見て俺も起きあがろうとした。ただ、身体がうまく動かなくて結局寝たまま話す。


「なーにが無事みたいだ。だよ、この傷全部お前らの攻撃の余波だっての」

「あ、ごめん……」

「まぁ全員無事だから問題ないけどな。雪が起きたこと紅さんに伝えてくる」


 司はそう言って病室を後にして行った。


 全員ってことはみんな助かったってことだ。最後の爆発の後どうなったのか知らないけど救助隊が見つけてくれたのかな。


 そうだ、緋翠と雪華は?


 周囲を見渡しても雪華はなかった。翡翠の姿もない。

 いや、翡翠はともかく雪華は武器なんだから病室にあるわけないか。


 しばらく待っていると病室の扉がまた開いて今度は母さんとーーー


「緋翠ちゃん、もう一回言って?」

「おじいちゃん大好き!」


 幼女趣味の変態は身内ではない。あんなの俺は知らない。見てない、見たくない。


「緋翠、おいで」


 まさに母のように緋翠を呼ぶ。俺の娘に触れることは許さん!


「うん!」


 笑顔で俺の側まで駆け寄ってきた緋翠の頭を撫でながら変態に向けてドヤ顔をしてやる。


「ぐぬぬ……」

「すっかり親バカになったわね、うちの娘もとい息子」


 母さん、あなたの血を受け継いだせいですよ?無差別に可愛いものに対して愛でまくる人よりはまだ理性的だと思うんだが。


(ちょっと変わって)

(あれ、翠?変わってって何を……?)


 普段門の前にいる翠が急に語りかけてきたからびっくりした後、意識が動画でも見ているみたいに変わった。一人称視点から三人称視点で見てるみたいだ。


「自分と同じ名前の幼女に気持ち悪い顔しないでお父さん」


(じゃまたね)

(あ、おい!確実に今の変だと思われたよ!?待てコラー!それに人の体勝手に乗っ取れるの!?)


 いくら俺が話しかけても翠は返事しなかった。後で上下関係をはっきりしないと。


「雪、今のは……」


 俺の変化に目を丸くした父さんが尋ねてくる。そういえば緋翠のことはいつの間にか知ってたけど翠のこと言ってないんだよなぁ。どうしよう。


「今の翠お姉ちゃんだよね!すっごく優しいんだよ」


 …………あれ?緋翠?もしかしてお母さん抜きで勝手にお茶会でもしてました?


 確かに精神的にリンクしている時は緋翠も俺の精神世界に入れるかもだけど……あの妹叔母のくせしてお姉ちゃん呼びさせてやがる!

 確実に父さんの血のせいだきっと。


「説明をしてくれないか、雪。お前自身の口から聞きたい」


「あーうん。話さないとね」


 それから俺は翠のこと。俺の能力について。全部を二人に話した。


 二人とも信じられないって顔をしてたけど全ての元凶だったデパート襲撃事件の時、血のドームで守っていたのが翠であることを伝えて二人とも信じてくれた。

 あの状況で俺も母さんも能力なんて使えなかったから。


 それから父さんは娘に気持ち悪いと言われたことがかなりショックだったようで萎びていた。うん、緋翠に言われないように俺はちゃんとしよう。


 そのあと、綾達パーティーのみんなとも話すことができた。みんな検査入院ということでしばらく休むらしい。


 俺?普通に謎の倦怠感で動けないので入院することになったよ。




「翠?勝手に俺の体乗っ取らないでくれる?というか出来たの?」

「だって自分と同じ名前の幼女にあんな気持ち悪い顔してたらイラッときて。私のこと認知してない分よりムカつく」


 反省のために正座をさせて説教タイム。全く反省はしてる様子はないけど。頬を膨らませて不服と訴えてくる。


「良いじゃねえか、父親に自分の名前と同じ子が可愛がられてるの見て嫉妬してんだ。可愛いだろ?そのくせ緋翠には姉ぶってるんだから面白いよなぁ!」


 腹を抱えて笑ってる雪鬼を見て今にも殴りかかりそうな翠を宥めつつ一応確認のため。


「雪鬼、お前さ。翠みたいに乗っ取ったりしないよな?」

「出来ないから安心しろ。翠は居候だが俺は門番だからな。そういえば最近居候が増えたぞ?」

「そうかそうか、安心……待て待って?増えたって言った?」


 既に二人もシェアハウスしてるのに増えてたまるか!誰だその居候って


「ワシじゃ」

「うわぁ!?」


 急に枯れ木みたいな老人が現れてびっくりしたッ。

 誰だお前。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る