6章174話 黄泉がえり

「本当に使うことになるとはな」


 司はそう言って防具にある収納から透明なビー玉のようなものを取り出した。何をするんだろうと思ったら急にそれを飲み込んだ!


 それって飲み込むものだったの!?


 司が玉を飲み込んだそのすぐ後、身体から魔力が溢れ出していた。それを見た俺はすぐに司が何をやったのか分かった。


 徐々に変化して異形の姿になっていく司。それは人でありながら龍を体現する力。龍人形態だった。


「その状態って魔力が大量にないとダメじゃなかった?澪の魔力とかもらってやったの大技でしょ?」

「まぁな。ただいつまで経っても他人任せの力じゃダメだと思って魔道具研とかに掛け合って錠剤型の魔力蓄積薬を作ってもらった。一つしか時間的に作れなかったから一発勝負だぞ」


 いつもより威圧感がある顔で喋る司にニヤリと笑って言葉を返す。


「むしろそっちこそしくじるなよ?頼むよ、特攻隊長!」

「任せとけ!」


 さて、俺も準備するかな。

 

「【侵血】【灼血】〜〜〜〜!!やっぱりまだキッツイなぁ」


 鬼化した身体に吸血の力を加える【侵血】更に新しく手に入れた【灼血】を重ねた事で髪や爪に朱色が加わる。

 雪華にも同様のことをする事でさっきの大技のようにより身体能力と破壊力が増す。

 ただ……この形態、上がりすぎた魔力に身体が追いつかなくてかなりキツい。


 まさに短期決戦専用形態と言うわけだ。


「本当にうちの人外どもは見た目の変化が激しいわね」


 そう言って札を五つ取り出した澪は式神を召喚した。玄武、朱雀、青龍、白虎、麒麟の五つはかつての司との戦いで見せた神獣強化で麒麟を強化していく。


「本当にねー」


 綾も自身の魔力を貯めて一撃に託すらしい。いや、おい待て何だその魔力。綾の膨大な魔力がどんどん圧縮されてしちゃいけない輝きをしてないか?


「綾?それ、私たち食らったりしない?大丈夫?」


 心配になって聞いてみる。味方の自爆で死にたくないからな。


「大丈夫!前に撃ち出すだけだから!」


 一抹の不安はあるけど本人が大丈夫って言ってるんだから良いか。


「よし、それじゃあファラオを冥界に送り返すぞ!」


「【一槍凍界】」


 怜の攻撃を合図に俺達は行動を開始した。


 司は凍ったマミーを足場にして一気にファラオまで近づく。

 急に近づいてきた司に驚きマミーで防御しようと召喚。が、残念。マミーの在庫不足の王様は裸の王様でしかない。


「【雷龍の爪】ッいい加減そのアホみたいな仮面とって素顔見せやがれ!」


 下から上に振り上げた司の攻撃はファラオの仮面を吹き飛ばすことに成功した。

 ファラオは顔を触り仮面がないことを確認すると手で顔を隠そうとした。

 が、そんな事で隠せるはずもなく。水分の失ったしわくちゃな顔を覗かせた。


「あ"ぁ"ぁ"!!」


 もはや隠すことなどできないと悟ったファラオは手で隠すことをやめて一刻も早く俺たちを倒すことに切り替えた。


 全部、計画通り。


「【魅了の魔眼】」


 俺たちをしっかりと見たファラオは鬼灯さんの魔眼の虜になった。


「よし、今のうちだよ!」

「【灼血・血斬】【桜吹雪】」

「【神獣砲】」

「【真作の贋作フェイクオブトゥルー】【破壊】」

「【圧縮魔力砲】」


 各々の最強技を棺桶に叩き込む。

 確実に何かが壊れたような音と共に爆風で前が見えなくなった。

 

「どうなった!?」


 ファラオは?棺桶は?勝ったのか?


 それは爆風が晴れてすぐに分かった。


「あ"ぉぉぉぉ」


 ファラオとマミーが次第に崩れていく。棺桶はバラバラになっていて原型すらなく粉々になっていた。


 だがまだ安心できない。この空間から出るまで何が起こるかわからないのだから。

 特によくあるフラグなんてーーー


「勝ったー!」

「そんなこと言ったら!?」


 綾の言葉を待ってたかのように棺桶のあった場所から禍々しいオーラが立ち上ってきていることに気がつく。


 この空間に来た時のように俺たちを引っ張って中に入れようとしてる!?

 しかも棺桶と繋がってたのって冥府だろ!?


「みんな逃げろぉぉぉぉお!」

「逃げるったってどこにだよ!」


 司のいう通りここは完全な密室。逃げ場なんてない。それでもあの闇に飲み込まれたら死ぬ。それだけはわかる。


 闇はまるで掃除機のように周りのものを吸い取り飲み込んでいき、俺たちも、というところで爆発した。




「ここは……」


 ここはどこだ?真っ暗すぎてわからない。落ちているのか浮いているのかすら判別のしようがない。


 そんな状態でもがいていると光が見えた。

 必死に泳ぐようにして近づいていくと緑色の球を見つけた。


「懐中電灯の代わりにちょうどいいな。持っていこう」


 光っているから照らすのに使えると思って掴んだ瞬間、球が手の中に沈んでしまった。


「え、は?やっば!変なものだったか!?ちょどこに行った」


 身体を触っても球を見つけることはできなかった。

 少し眠い。ちょっとだけ………



『   』

 何か声が聞こえた気がしたけどそれどころではないくらいに眠かった。


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