6章167話 魔窟への準備

 緋真姉と別れた俺は当初の目的の通りへパティックに向かった。ただ、その足取りは重いように感じた。


「ヘパイストスさん居ますかー?」


 最初来た時より店、いや武具店といった方がいいのか。外装も内装も見違えたな。


「おぉう、雪か……」

「なんかすごい疲れた顔をしてますね……また日を改めた方がいいですかね?」

「いや!今日はもうお店は閉めるから相談に乗ってくれ!」


 まるでゾンビのようになったヘパイストスさんの魂の叫びに断れなかった。まぁこうなったのは俺のせいでもあるかもだし。


 店の奥に通された俺は椅子に座って話を聞くことにした。緋翠も隣に座って出されたお菓子を食べている。


「で、相談って何です?」

「客が……来すぎたんだ」

「はい?」

「客が来すぎて休めないんだ!改築が終わって再開したら急に客が来てろくに休めないんだよぉッ」

「……別にいいんじゃないですか?一応提案としては予約制にしてこれ以上は受けないとか言えばいいんじゃないですか」

「最高だよ、雪!ぜひそうしよう。で、君の用事って何だい?」


 テンションの振れ幅凄いな、俺としても助かるけど。


「ダンジョンに入ることになったので雪華のメンテナンスと必要なものとかもしあれば見繕いたいなって」

「なるほど、雪華に関しては今日のうちに終わるから少し待ってもらうけどいいかい?その間にそこにあるものを物色しとくといいよ。魔防隊の奴らも買っていくものだから」


 常日頃からダンジョンに入ってる人たちが買うもの!それなら役立ちそうだな。


「そうさせてもらいます!」

「緋翠はこっちおいで!お母さんと一緒に行くんだろ。お前と雪華の両方を見るからね」

「うん!」


 緋翠はとてとて小走りでヘパイストスさんの方に向かった。


「さて、私も物色しますかね。お、これなんて良さそう。魔力式のランプ!あーーでも持ち運びが良くないなぁ。」


 戦闘すること考えるともっと取り回し聞くやつの方がいいよな………これ前にもどこかで似たようなことしたなぁどこだっけか。


「お母さーん!」


 緋翠の声が聞こえた瞬間、体を突き刺すような殺気を感じて半身ずらすと雪華が元居た場所に吹っ飛んできた。そうかぁ、ワイバーンの時のあれかぁ。


「危ないから刃物の時は飛んでこないの!避けなかったら危なかったよ!」

「ごめんなさい……」

「無事かー?調整が終わったとたん吹っ飛んでいったから大丈夫かと思ったんだが……無事そうだな」

「何とか……」


 結局、へパティックでは雪華のメンテ以外には何もしなかった。



「で?ここに来たわけ?」

「まぁ開門できるならしときたいだろ。鬼化の方はあいつが出てこないってことはできないっぽいし」

「鬼ぃちゃんはしばらく休むって。じゃ、私の門を開けようか」

「いいのか?雪鬼せっきは試練的なの用意してたけど」

「最初の段階、認知はもう終わってるから。はい」


 翠から光の塊を軽く渡された。その瞬間、その力の使い方が頭に流れ込んできた。


「そうか、だから……」

「今渡した力【眷属強化】は吸血を行った相手を強化する力。魂に作用するから今まで雪が他人の魂に入れたのはこの力の片鱗ってこと!どう?まだ開けてく?」

「もちろん!」

「じゃあ、今度はこれ!」


 俺の目の前に大きな氷塊が降ってきた。


「はは、ここでなら何でもアリか」

「これを血で溶かしてね。【灼血】血液操作の属性付与だよ!」

「キター!ついに俺にも属性付与が!?」

「溶かせたらね。血で溶かさないと意味ないからね!」


 ふ、そんなの簡単だろ!どれだけ俺がイメージしてきたと思ってる。血が燃えるなんて簡単……あれ、全く燃えないなぁ。


「簡単にできるなら試練なんていらないの。今まで雪は属性なんて考えてこなかったから付与の仕方がわからないんでしょー」

「そ、そんなわけあるか!すぐに習得するって!」




「はぁはぁ、やっとできたぁ。」


 血に赤黒い炎が灯っている光景を見ながら俺は座り込む。身体に疲労は感じないけど精神的に疲れた……


「今日は此処までみたいね。灼血のみにしときなさいよ、新しい属性!これ以上増やしても使い切れないんだから」

「そうする……今日は帰るよ。ありがとうな、翠!」

「あ、うんそうだよね……ばいばい」

「はぁ。もう少し素直になったらどうだ?お兄ちゃんに甘えたいんだろ。ん?」

「少し目つぶってて」


 すると柔らかい感触が俺を包み込んでいるのが分かった。少し目を開けると翠が俺に抱き着いていた。


「絶対に無事に帰ってきてね……」

「ああ。」


 妹に心配される情けない姉だけど頑張るからな!見ていてくれよ!!

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