5章153話 緋翠

「えっとつまり?アーデがやり過ぎなくらい加護を与えてしまったせいでアーデですら予想してなかったくらいの効果になってるって事?」

「うん、そうなるかな。で、でも弱すぎるよりいいよね!?」


 それはそうなんだけど。


「ねぇ、さっきから気になってたんだけどその子はどうしたの?もしかして浮気!?」


 急にアーデが変な事を言う。それもどうやらその子って言うのは緋翠の事らしい。


「緋翠のこと?この子なら私の娘として可愛がってるけど浮気ってどう言う……」

「だって私以外のドライアドが雪のそばにいたらそう思うでしょ?」


 その瞬間、この場の空気が凍りついた事を俺は悟った。


「アーデ、今なんて言ったの?緋翠がなんだって?」

「その子が私と同じドライアドだって言ったの。あれ?でもなんか違うような。」


 確かに急に現れたり、魔力が異常にあったりなど色々おかしいことはあった。それでもまさかドライアドなんて事あるのか?だとしたらなんで俺の元に現れたんだ。


「んー?なんか他人な気がしないんだよね、その緋翠ちゃんって子。」


 そこまで話して緋翠がアーデに気がついた。さっきまで朱音と遊んでたから気が付かなかったみたい。


「ん?あ、お母さん!」


 てっきり俺のことを言っていると思ったのだが緋翠はトテトテと走ってアーデの元まで行った。


「初めまして、お母さん!私緋翠!」


 アーデのことを母と呼んだのだった。



 色々大混乱の後、アーデが少し考えさせてと言ったので二人をクラスに置いて朱音を案内することにした。


「一階が1年の教室があって上の階に2年と3年の教室があるよ。それからこことは別に部活の部室が固まってる部活棟があっていろんな部活があるよ。聖火祭の間、いくつかの部活は発表とか出展とかしてるから見にいくのもありかも。」


 自分が裁縫部のモデルとして出ることは伏せて話す。秘密にしないといけないからではなく純粋に恥ずかしいからだ。メイド服で案内してる時点で今更だが。


「雪姉はその体に慣れた?色々大変だったんじゃない?」

「そうなんだよ!入学してからすぐに女子寮に引っ張られていったり本当に大変だった。でも、いろんな人に会えて楽しかったよ。」


 歩きながら出し物を見て回る。久しぶりに会う妹が元気なのを確認できて良かった。


「ねぇねぇ、これ行こっ!」


 朱音が行こうとしていたのはあの、プラネットシューターだった。もうあの時みたいな醜態は晒さない。来るとわかっていればあの程度!



「はぁはぁはぁ、な、なんとか倒した。うぷ。」

「あー楽しかった!なんだかお腹減ってきちゃった。雪姉の出し物に戻ってお昼にしよ?」

「了解……」


 クラスに戻ると意外にもいつものメンバーが全員揃っていた。


「あれ、みんなここでお昼食べるの?他でもいいと思うけど。」


 俺がそう言うと顔を見合わせて笑い合った後に答えた。


『そりゃあねぇ?』


 ?何かあったっけ。別に変わったところなんてないと思うけど……


「お待たせしました、オムライスです。お前らなぁわざわざここに来ないで別の場所で食べろよ。」

「だって司くんの執事服とか見てて面白いし!」


 あ、そうか午後は男連中が執事服で接客するんだったな。


「わぁ、司さん似合ってますよ!うん、本物の執事みたいですよ。」

「ガラじゃないから違和感すごいんだけどな。そうそう、化紺先輩がさっき来て後で最後の直しをしに来てくれってさ。」

「了解、後で行くよ。」


 見てて面白いので俺たちもこのクラスで食べることにした。


「これ美味しい!お店で出せるレベルだよ、これ!」

「私と司、それに料理得意な人たちで作った特製のオムライスだからなぁ。そう言ってもらえると嬉しい。」


 オムライスを食べ終わり少しゆっくりしているとヘパイストスさんがこっちにやってきた。


「雪、ちょっと良いか?」

「はい?良いですけど……ごめん、ちょっと席外す。」


 朱音を置いて少し歩くと緋翠とアーデの姿もあった。


「さっきまで3人で話した結果なんだが……」

「緋翠がドライアドとか言う話ですよね?」


 いきなりのアーデの爆弾発言の詳細がわかったのか。


「雪は接木って分かるよな?」

「はい、枝を切って植えることで新たに木を生やすやり方ですよね?」

「まぁそんなとこなんだが、アーデの枝に魂の分身みたいなのを入れて雪と通信するのがアーデと雪華の繋がりの仕組みだったんだが。何故かその魂の分身が一つの人格を得て実体化した存在が緋翠らしい。」


 つまり、緋翠はアーデの分身ってこと?


 俺が混乱しているとアーデが捕捉してくれた。


「完全にわたしのせいなんだけど1000年分の加護のせいで本来、自我を持つはずのない分身がほぼ人一人分の量の魂を持っちゃったみたい。残りの分の魂のカケラを雪から貰って完全な個として確立したって事かな。」

「うーん、要約すると?」

「私と雪の子供ってこと!」


 なんとなく予想はしてたけど頭の痛い話になってしまった。


「つまり、緋翠は人間と魔物のハーフってことですか?」

「そうなるな、雪の血液に含まれた魂が入ってるからさしずめ【吸血樹精ドライキュリア】ってとこだろう。」

「まぁ、緋翠の正体がなんであれ、私は緋翠のお母さんですから見放したりしません。問題は、緋翠を社会的にどう扱ったら良いかってことですよね。」


 魔物と人間のハーフなんて前代未聞だし、戸籍もないから大変なことになりそう。


「そこは秋に任せた。すでに働きかけているらしいから安心して良い。呼んだのは緋翠の正体を一応知らせるためだからな。」

「それを聞いて安心しました。この後、ヘパイストスさんはどうするんですか?」

「担任とトラブってるティルを回収して楽しんだら帰るさ。じゃあな」


 テイルさん来てたんだ……頑張って、先生の胃腸!


あとがき


ここまで読んでくれてありがとうございます!

面白いと思ってくれたら星とフォローをお願いします!作者のモチベーションが上がりますので!何とぞ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る