5章150話 死者墓地

「みんなお疲れ様、そろそろ交代だぞーってどうしたんだ?雪。」


 そっかぁ、もう交代になっちゃったか。嬉しいはずなのに喜べない……。はぁ、行くしかないか。


「さっき鬼灯さんが来たんだけどね?雪ちゃんどんな出し物か聞かないで行くって言っちゃって。」

「鬼灯のクラスって確か……」

「お化け屋敷だね。」

「なるほどなぁ、ほれ、緋翠ちゃん連れてきたから元気出せ。」

「お母さん、元気出して?私が傍にいるよ!」


 おぉ、緋翠だぁ。みっともない姿見せられないよな!


「ん!大丈夫。お母さん元気だからね!」

「空元気だなぁ、あれ。」

「しっ!元気出してくれたならなんでもいいんだよ。」


 聞こえてるし。緋翠が居てくれるならお化け屋敷なんて怖くない!


「今日はどこに遊びに行くの?」

「今日はご飯を食べたら友達の出し物を見に行くんだ。きっと楽しいと思うよ?」

「うん、楽しみ!」


 取り敢えずお腹が空いたから何か食べに行こう。決して怖いから後回しにしたとかではなく緋翠もお腹が減っているだろうと思ったから。


「それじゃあ行こうか、今日は二年生の出し物でお昼にしよう。」


 階段を登り二年生のクラスを歩いて回る。流石に二年目ということもあってクオリティも高いな。


「お、ポップコーンがある。へぇー何種類かあるのか。」

「これ、美味しい?」

「美味しいよ?お腹にはたまらないけど。」

「じゃあこの黒いやつ食べたい!」


 緋翠はチョコが染み込んだポップコーンを頼んだ。んーなら俺はスタンダードなキャラメルにするか。


「すみません、Sサイズでチョコとキャラメルください。」

「はい、どうぞ。」


 よくある映画館スタイルの入れ物じゃなくてジッパー付きの袋で歩きながらでもこぼれない仕様だ。ありがたい。


「美味しい!ふわふわで甘くて面白い!」

「緋翠、こっちも美味しいよ。」


 俺は緋翠にキャラメルも食べさせる。俺に似て甘党になる気がする。


「これも美味しい!ポップコーン大好き!」

「良かった。お、バナナチョコある!すみませーん一つください!」


 屋台風の外観をしたクラスでは色とりどりのトッピングをしたバナナチョコが売ってあった。


「うん、美味しい。」

「雪ちゃん、私たち忘れて行かないでよね。はい、緋翠ちゃん。」


 あ、忘れてた。綾が緋翠にバナナチョコを渡してる。申し訳ない。


「そろそろお腹いっぱいになったかな。雪ちゃん、行こっか!」

「ぇ。も、もう少しお腹減ってるよね!?緋翠もお腹減ってるよね?」

「お母さんのお友達の出し物行きたい!」

「ぐっ!しょうがない行くよ……はぁ。」


 階段を降りて鬼灯さんのクラスまで行くとそこにはクラスなんてなかった。どうやったのか知らないけど壁は全て障子になっていて空いた穴から目とか腕とかが生えてる。


 い、行きたくなぃー!既にもうお化けいるぅー!?ひ、緋翠も行きたくないよね?ね?


「お母さん!何あれ面白い!手が生えてるよ。」

「すごいクオリティだね、中はもっと凄いのかな。」


 ダメだぁ怖いのいけるタイプだ。


「い、行こうか……楽しみだなぁー。」


 入り口には受付の人がいる。話しかけたくないなぁ、なんでこの人もお化けに化けてるんだよ。髪の長い女の人、貞子かな?


「あ、来てくれたんだね。待ってたよ、血桜さん!」

「え、私の知ってる人!?」


 だ、誰だ!?女の人で知り合いなんかいたっけ?


「僕だよ、鬼灯さ。分からないよね、顔隠してるし。ほら!」


 顔の前にかかった髪を退けると鬼灯さんの顔が見えた。良かった、少し怖くなくなった。にしてもオーラをオンオフ可能なのか!


「さて、うちのクラスの出し物の説明をしようか。この死者墓地では夜な夜な死者が這い出てきますぅ。このお札を墓地の奥にある祠に貼ると封印できますぅ。」


 鬼灯さんが演技して怖そうにする。鬼灯さんだと知ってるから怖くないけどね!


「それでは行ってらっしゃいぃ。」


 鬼灯さんが扉を開くと中から煙と共に冷気が流れてくる。怖いんだが。


「ほぉおー!お母さん行こ!」


 くそぅ、緋翠が目をキラキラさせてるぅ!行くしかないかぁ。


「雪ちゃん、頑張ろうね?」

「綾ぁ手を握っててぇ。」


 緋翠がどんどん前に進んでいく後ろを綾に引っ張られる形で進んでいく。


 カァカァカァ

 ギーギー

 ひゅるるるるる


「本当に教室?明らかに大きさも質感も墓地なんだけど!?ヒッ今何か動いたぁ!」

「もぅ、緋翠ちゃんが先行っちゃったでしょー?」

「う、うぅん。緋翠が心配だし行くよぉ〜。」


 ひたひたひた


 ん?前から何か歩いてくる。緋翠かな。


「良かったー緋翠帰ってきたんだね。先に行くから心配……」

「あれ、緋翠ちゃんなら……」


「ばぁ!」

「顔が無い〜!?ピィッ!」


 緋翠だと思ったのに顔なしの幽霊だぁー!?


「あはは、お母さん怖いのぉー?」

「緋翠ちゃんならここにいるのにー。」


 綾の背中にしがみついたら隣に緋翠が居た。


「お化けの人がね、お母さんたちに後ろから追いついたら楽しんでくれるっていうから隠れてたの!」


 ありがたいけど夢に出るよぉ!


「ほらもう少しで墓地だから頑張って!」


 くそぅお化けにすら励まされたぁ。


 怖がりながらも奥に進んだ俺たちはなんとか墓地を見つけた。


「これで終わり……綾、お札を早く!」

「はいはいってあれ?何か踏んだ?」

「「「「ゔあ"あ"あ"」」」」


 この声、足の遅さ絶対そうだ。ホラー系に皆勤賞を取ってるあの!


「ゾンビだ!?なんで教室なのに地面から這い出てくるんだよ!?に、逃げよう!!」


 俺たちは全速力で逃げる。流石に追いつけないだろうと思って後ろを振り返ると。


「「「「ヴェあ"あ"あ"あ"!!」」」


「ゾンビが走るのは反則〜!?」


 異様に足の速いゾンビから逃げるように走ると祠を見つけた。


「綾速くっ、ゾンビがそこまできてるぅ!」

「封印っと!」


 ゾンビは札を祠につけた瞬間消えていった。


「良かったー。もうゴールだよね。祠にもちゃんと札を貼ったし!」


 出口までの案内に従って外に出ようと扉を開けた瞬間。


「ばぁっ!」

「ピッ!?」


 鬼灯の怖くない脅かしを受けて雪は気絶するのだった。


「僕の脅かしでびっくりしたのは血桜で初めてだよ!ってあれ?おーい、血桜さん?」

「安心しきった瞬間に食らったから立ったまま気絶してる……。」

「楽しかったー!今度は私も驚かせたいな!」


あとがき


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