5章148話 1日目終了

 あの後、何とかクラスメイトは復活したのだが怜の料理は美味しいというよく分からない記憶改変が起きていた。きっと頭が耐えられないほどの不思議な味だったんだろう。


「みんな、お疲れ様!初日の凄まじいお客の数をよく捌き切ってくれた。明日もまだあるから出来るだけ体を休めるように。それじゃ解散!」


 江口くんが仕切ってクラスの清掃と手入れ、品薄になった商品の補充を終わらせた俺たちは寮に戻ることにした。


「う〜疲れた。眠い……。」


 流石に疲れた。ずっと料理を作りっぱなしだったし基本ご飯の入ったフライパンを振っていたから腕がパンパンだ。


「珍しく雪がお疲れだな。ほら、雪。背中貸してやるからもうちょい頑張れ。」

「んーありがとう。」


 司は頼りになるなー。澪じゃないけどこいつの背中は安心できる。


「くーくー。」

「ありゃりゃ。寝ちまった。」

「雪ちゃんずっと動き回ってたからね。相当疲れてたと思うよ?でも楽しそうだった。」

「きっと浮かれてて疲れとか感じなかったんだろ。こいつはあまり人に自分の気持ちは話さないけど聖火祭に出られて嬉しかったんじゃねぇかな。今まで諦めてた高校生活だからな。」


 綾と司は雪を起こさないように優しく寮まで連れて行く。幼馴染でしか分からないこともあるのだろうと怜たちは3人を静かに見守りながら共に寮まで歩くのだった。


 司は女子寮まで着くと雪を起こそうとするがそこにある人物がやってくる。


「司くん、雪は私が預かるよ。綾ちゃんたちも疲れてるだろうし私が背負っていくから。」

「緋真さん!すみません、お願いできますか?こいつ本当にいっぱい働いてくれたから休ませてやってください。」

「えぇ。それじゃ司くん、お疲れ様。」


 緋真は司の頭を撫でた後、雪を背負いながら寮に戻って行った。司はと言うと


「緋真さんに褒められた……!よっしゃ。でも、男として見られてるようには見えないんだよなぁ。もっとかっこいい姿を見せたほうがいいのか?」


 どうやったら緋真に振り向いてもらえるのか考えながら男子寮に歩き出すのだった。



 身体がふわふわする。何処かを揺蕩うような感覚がして気持ちいい。身体がぽかぽかして疲れが消えていく感覚がする。


「こら、雪。寝ないの。」


 なんだよ……気持ちいいんだから邪魔しないでくれ。


「お風呂で寝ないの。のぼせるわよ。」


 ん?なんだか夢じゃない気がする。ゆっくり覚醒してきた意識を目を開けることに集中すると広がった光景は大きな山脈だった。


 は!?何で裸なんだ。ってここは風呂場か!どうしよう、司におぶられてから記憶がない。どうしてこうなった。


「あの、緋真姉?私ってどうやってここに?」


 物凄く嫌な予感がして冷や汗が出てくる。


「どうやってって……司くんに背負われてた雪を私が預かってお風呂まで連れて行って入れただけよ。寝ぼけてたからそのまま体も洗ったわよ。」


 最悪だ!まさか裸を見られるだけじゃなくて体まで洗われるとか恥ずかしすぎるんだが。そういえば他のみんなは?


「綾とか緋翠はどうしたの?」

「あの二人は先に出て行ったわ。銀嶺姉妹もね。」


 つまり、俺の痴態は全員に見られたと。


「はぁ〜〜死にたい。」

「ダメよ、雪。簡単に死にたいなんて言うものじゃないわ。それに私とお風呂に入ってる時点で今更じゃないの。」


 それはそうなんだけど……もう完全に女湯で入るのにも慣れちゃって何も感じないんだよね。これが男としての意識が薄れてるのか慣れたのか微妙なところではあるのだけど。


「雪はさ、男の子に戻りたいとか思ったことはある?」

「そりゃもちろんあるよ。ただ、この生活を手放したくないって気持ちもあるかな。女になったことで苦労したことはたくさんあるけど、そのぶん能力とか友達とか色んな出会いに恵まれたから。もし戻れると言われても即決できる自信はないかな。」


 実のところそこまで男に思い入れがあるわけでもないんだよね。司と男同士のノリが出来なくなった訳でもないし、綾との関係だってそこまで変わったわけでもない。


「……そう。それとこれは魔防隊と家族両方から聞くわ。緋翠ちゃんがもし、得体の知れないものだったとして貴方はどうするの?」


 緋翠のこと?いや、確かに出会こそ変だったけど既に俺の娘だ。きっと緋真姉は緋翠の正体が俺に何か危険があるかも知れないと思ってるのかも。それでも俺は……


「緋翠がどんな存在であれ、私の娘だよ。責任は取るし、愛情も注ぐ。私を母親として慕ってくれてる子を見放したりなんか出来ないよ。」

「それは同情から?」


 あーまぁうん。そうだよな、昔の俺みたいでほっとけないと思ったのが最初ではあるんだ。必要とされたい、居場所が欲しい。そんな子をほっとけないと思ったのは確かだ。


「いや、確かに昔の私みたいだとは思ったけどね。それだけの理由じゃないんだ。すでに緋翠は私の家族で、いなくなるなんて考えられないくらいに私自身がいて欲しいと思っちゃってる。」

「……はぁ。なら私もそう思うことにする。でも、責任というなら私にも半分くらい預けなさい。私も緋翠ちゃんの家族なんでしょ?」

「はは、そうだね。」



あとがき


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