第2話思い出

 自分のクラスに入ると騒がしい空気に圧倒される。テキトーにあいさつを周りにしながら窓そばの一番後ろの席に座ると前の席のクラスメイトが話しかけてくる。


「血桜は進路決まったのか?母親の手伝いか?」


 クラス中に俺が無能力者なことは知られている。が別にいじめられるわけでもなく普通に接してくれている。


「いやまだ決まってない」


「おいおい、卒業式当日まで決まってないのかよ。まあ、血桜ならなんとかなるだろ。」


 このクラスメイトが無責任に言ってくるのには理由がある。能力がない分勉強でカバーしないとほんとにまずいと思って頑張った結果、クラスで一番テストの順位がいいのだ。


「看護婦の格好とか似合うと思うけどな。絶対男だってばれないと思うぞ。」


「嫌だって。俺が女顔なの気にしてること知ってるだろ?」


 俺は昔から父親譲りの線の細さと母親譲りのこの顔のせいで女と間違われてきた。だから割とコンプレックスだったりする。

 出来れば昔助けてくれた魔防隊員みたいなかっこいい男になりたいんだけどな。尤も能力がないから無理なんだけど。

 そんな話をしているとクラスの扉がガラガラと音を立てながら開いた。


「遅刻ギリギリだぞ、血桜。じゃみんな体育館に向かうぞ」


そうして卒業式が始まった

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「やっと終わったーあの校長話が3回もループしやがった」


「あの校長ボケはじめてるって噂だしねー」


司と綾に合流して帰宅していると

「雪君の家で卒業パーティーしようよ!」

と朝の怒りなど何処へやらこんな提案をしてきた。


「良いぞ、どうせ家隣だし3家族でパーティーしよう」


(どうせ母さん達そのつもりで準備してそうだし)


 そんな事を話していたら家に着いた、すると予想通り家から綾と司の両親の声と母さんと父さんの声が聞こえてくる。


「お帰りなさい、雪。手を洗ったらパーティーよ」


「だと思ったよ、バーベキュー?冷蔵庫に肉が入ってるのかな?持ってきた方がいい?」


「ええ、そうよ。流石に何回もパーティーしてるとわかるわね。お願いできるかしら?」


「了解」


 家はかなり広くてよくバーベキューをしてるのでどうするかはわかる。


「にしてもよく休みが取れたね?母さんが抜けた穴どうにかなるの?」


 母さんは東京治癒学校に隣接している病院に勤めている。魔防隊が創設した最先端設備を備えた日本一の病院なだけあってかなりデカい。

 母さんの血を使った治癒は唯一無二なもので母さんの精密操作あってこそだ。


「流石に息子の卒業式くらい休みになるわよ、まあ同僚に写真見せたら娘さん?って言われたけど。」


「しょうがないよ、僕に似たんだろうからね。」


そう言いながら優男の様な細身の男が歩いてきた。


「父さん。久しぶり」


 これが俺の父さん【血桜 秋】だ

 能力が鬼のくせしてまったく鬼らしくない細身で折れそうな風貌。しかも力も他と比べて少し強いくらいなのだから父さんに似ても嬉しくない。なんの仕事してるかわからないし。


「久しぶりに会ったのになんも変わらないな、なんの仕事してんだよ」


「ヒ・ミ・ツ」


「うぜぇ」

 

バーベキューをして腹一杯になった頃、幼馴染二人と中学の思い出なんかを語り合っていた。


「雪君、能力何かないか探すために色々やってたよねー筋トレとかして鬼のパワーが出ないかとか」


「紅さんに血出してもらってずっと念じてたりしてな」


「何もなかったけどな」


「大変だったのはやけになってフグを毒抜きなしで食べて解毒出来たりしないか勝手に試して紅さんに死ぬ程怒られたりしてたよね」


「あったあった、何処からかフグ持ってきて俺はきっと毒が効かない体なんだわとか言って食べたんだよな、雪」


「まあ、流石に死にかけたし、それでやっと能力の諦めがついたから逆に吹っ切れたけどな」


 嘘だ。今でも能力が欲しいし二人と同じ学校に行きたい。一人だけ置いてかれるなんて想像しただけで嫌な汗が出てくる。

 そんなことを気取られないように俺は司や綾の黒歴史を暴露する。


「能力で言ったら司だって結構大変なことあったろ、ウロコの強度確かめるとか言って綾の全力魔法喰らったり、迷走して瞑想したら龍に変身出来んじゃないかと考えたらそのまま寝たりとか」

「綾だって精密操作しないと魔防隊で役に立たないとか言われて特訓しようとしたらストレス溜まって特大サイズの水球暴発させて溺れかけたりしてたよな」


「あったな、そんな事あれからもう3年経ったのか、結構早く感じるな」


 そんな黒歴史を暴露しあっていたらいつもなら「もう昔のことでしょ!」とか突っかかってくる綾が静かだ。


「ねぇ、高校行ってもまたこうやって話せるよね?」


 いつになく不安げな表情で俺たち二人に聞いてきた。

 やっぱり綾も離れるのは嫌なんだと思ったら少し嬉しかった。それでも、俺は必ず離れることになる。能力が無いだけなのに。


「俺は綾と同じ学校だから話せるけど雪は大きな休みじゃないと会えないかもな、うちの学校全寮制だから」


「だよね・・・雪君!何か能力目覚めてたりしない!?そしたら!

「綾!やめろ雪も行けるなら学校行きたいんだ!それに・・・そんなこと言っても意味ないだろ」


「ごめん、それでもやっぱりこんなふうに毎日会いたくて・・・」


「気持ちはわかるけどこればっかりはな」


 能力を持たないってのにここまで気にしてくれる幼馴染がいて幸せだなと思いつつ、どうしようもないことを実感した。

 俺は空元気で綾を励ますことにする。


「大丈夫、休みには会えるし母さんの手伝いをするつもりだからもしかしたら隣の病院にいるかもしれないしな」


「!そっか紅さん学校の隣の病院にいるんだっけ、そうしたらまた会えるね!」


 おそらく、母さんの手伝いをする事になると伝えながらバーベキューの片付けを始めていった。皿を一枚ずつ片付けていくたびに二人と離れる時間が近づいていく。

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