血を飲み込んだ無能力者、吸血・鬼になる〜能力三つあるんだけど!?〜

怠惰るウェイブ

0章第1話卒業式

  俺は恵まれてると思う。両親と兄弟がいて目立った喧嘩もなくお互いのことを大事だと思ってる。ピンチになったら命を懸けてでも俺は助けに行くだろう。

 それでも恵まれたと思えないことが一つある。誰もが持ち、普通に使えるものが俺には使えない。そのせいで俺は―—――—


朝起きた俺は昨日、乱雑にポストから飛び出していたチラシを机に置いていたことを思い出して目を向ける。


『世界人口の99%が能力を持つ現代においてなりたい職業第一位!』


 俺は机に置いてあるチラシを手に取って握りつぶす。華々しく書いてあるそのチラシが少し憎く感じたから。


「魔防隊・・・なれるならなりてぇよ。」


 魔防隊は【ダンジョン】と呼ばれる異界から出てくる魔物を討伐したり、魔物が増えすぎて起こる【魔物氾濫】スタンピードを防ぐため中に入り殲滅する組織だ。


 昔、ダンジョンから出てきた魔物が妹を襲ったことがあった。その時に助けてくれた魔防隊の人をカッコイイと思って幼馴染と『魔防隊に入って魔物を倒して家族を守るんだ!』なんて話をしたこともある。だけど俺にはこの職だけは選べない。


 俺はいつものように家のポストに入っているチラシをゴミ箱に投げ捨てて、ため息をついて学校に行く支度を終わらせていく。

 結局、進路相談でもなりたい職業は書けなかったな。


「能力があればなぁぁぁー!」


 

 この俺【血桜 雪】は世にも珍しい無能力者だ。生まれた時から魔力がない体質で能力を使うには魔力が必要だった。チクショウ!

 そうやって愚痴をこぼしていると


「雪兄ぃー!まだ支度できてないのー?ご飯さめるよー!」


 下から元気な声が聞こえてきた。


「今行く!」


 俺は階段に向かいながら返事をする。

 階段を降りると声の主、妹の朱音あかねがテーブルに座って朝ごはんを食べていた。


「あ、雪兄やっと来た!お母さんとお父さんはもうご飯食べ終わっちゃったよ?」


「ごめんごめん、中学ももう終わりかと思ったら色々考えすぎちゃったよ」


「そりゃあ雪兄能力ないから進路考えないとなのに全く決まってないんだから悩みもするか」


「ッ!人が言わないようにしてた事をサラッと言いよって」


 そうこの妹の言う通り進路は、いや将来は高校である程度決まるのだ。

 この世界では誰もが何かしらの能力を持っているため高校から能力を活かした職に就くための勉強をする。

 つまり、能力を持たない俺は能力前提の高校には行けない。しかし、能力を持たない人の高校があるかと言われればそれも否。

行ける高校がないのだ。


「お前は良いよな母さんゆずりの回復特化で」


 俺の母さんの【血桜 紅ちざくらこう】は血を操作できる能力を持っている。これを人に使う事で解毒や病気を治すことができる。母さんはその能力で大抵の毒なら解毒できる。

 朱音は母さんと同じ血を操作する事に加えて細胞を活性化させてゲームでよく言う【ヒール】が出来るのだ。


(まぁかすり傷程度しかできないけど)


「ふふん!私は来年には東京治癒学校に入れるんだから!」


「コネでな」


「スカウトって言いなさい!」


 つい先日朱音宛てにスカウトが来やがったのだ。母親譲りの治癒能力を見越してだろう。能力があるだけでスカウトが来るなんて羨ましい限りだ。俺には何もないのに。


「はいはい、スカウトね」


「わかればよろしい。ところでさっさとご飯食べないと遅刻するよ?卒業式でしょ?今日」


「やっば、そうだった」


 置いてあった味噌汁とご飯をかきこんで玄関に向かう。すると後ろから朱音が声を掛けてくる。


「司さんと綾さんが来てたけど先に行くってよ」


「はぁ!?先に言えそれを!!ああもう、行ってくる!」


「行ってらっしゃーい」


 俺は玄関を出ると全力でダッシュした。


「ったく、少しは待てないのかあの幼馴染どもは」


 司と綾は俺の幼馴染だ。生まれた病院から同じなのだから腐れ縁ってやつだ。

愚痴りながら走っていると目の前に歩いてる二人を見つけた。


「あ、雪おはよう」


「おはよう、じゃねーよ!置いてくな!?」


 俺は走ってる勢いでドロップキックをかましてやった。が、


「痛ってぇー!」


「まったく、俺の能力知ってるのに突っ込んでくるなよなー」


「大丈夫!?」


無駄に硬いイケメンが【龍堂 司】

心配してくれてる優しい美少女が【法条 綾】だ。


「大丈夫、ありがとう。さすがドラゴン様だなあ?」


「雪、ドラゴンはやめろ、ドラゴンは」


「実際ドラゴンだろう」


 こいつは体を龍のウロコを纏うことができる。腕だけだけど。


「良いよなー二人とも進路先は魔防学校か?」


「二人ともそうだよー私も魔法で頑張るんだー」


 綾は魔法使いだ。魔法使いは結構世の中にいる。しかし、綾はかなりの魔力量を誇っているため桁違いの威力を誇る。


「バ火力で倒すのか」


「バ火力言うなー!確かに精密操作苦手だけど」


「悪りぃ悪りぃ。っと着いたぞまた後でな」


「じゃ式終わりにな」


「うーまた後で覚えてなさいよ?」


 俺は一人クラスに向かう途中小さくつぶやく


「置いていかれるのは・・・辛いなぁ。」


 だってそうだろ!?能力が無いだけで生まれた時から一緒だった親友たちと別れなきゃならないなんて・・・そんなのあんまりだ。


「ダメだな、卒業式だってのにこんな顔してちゃ。それにもう諦めたはずだろ。そうするしかなかったんだから。」


俺は頬を叩いて気持ちを入れ替える。


「よし、入るか!」



後書き

はじめまして!

初投稿作になる今作はカクヨムコン8に参加してます!

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