29-5 黒竜





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  《呪いの暗黒竜王

   北の方位

   距離  65キロメートル》



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 目線の先、遠方に小さく見えた。

 テカテカした、

 遊園地のような明かりが灯っている。

 視力を望遠モードに切り替え、確かめた。

 いにしえの宗教的な建造物が立ち並び、

 中央には、

 ゴールドの修道院がギラギラと佇んでいた。



「いくぞ、冒険者ウエスギよ」


 シルバーのブーツが地を蹴った。

 それを、ぼくは強く呼び止めた。


「いくな! スノーナウ。

 ぼくは、君を止めるために、ここに来た」


 立ち尽くすスノーナウ、

 鎧の背をみせたまま叫んだ。


「戯言をいうな! 

 いまが千載一遇のチャンス!

 時間がないんだ!」


 彼女の絶叫が、草原の葉をふるわせる。

 もう一度、ぼくは繰り返し言った。


「スノーナウ、ぼくは、君を必ず、止める」


「勝手にしろ、

 ならば一人で行くのみ、さらば」


 背中でそう言うと、

 スノーナウは振り返らずに走りだした。

 足音の一音一音が、

 ぼくの心臓をつき刺していく。

 ゆれる後ろ髪を目で追いかけた。

 あの日と重なる光景。

 二年生の終わり、3月の空と雲。

 春の風。

 グラウンドの桜の梢には、

 幾千の蕾が芽吹いていた。

 ぼくは動く。




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 ノブナガ『ウエスギさん、作戦どおり、例の、

      空間隔絶の魔法を使ってください。

      効力時間は、30分間です。

      オレはこれで、通信を絶ちます』

 


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 視界左下、

 ノブナガからのメッセージだった。

 


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 ウエスギ『わかった』


 ノブナガ『ウエスギさん。

      オレ、姉ちゃんの高二の文化祭、

      見にいったんですよ』


 ウエスギ『あの、文化祭に来ていたのか?』


 ノブナガ『はい。姉ちゃんは、

      昔から、あんまり、

      しゃべらない人だったから……、

      びっくりしました』


 ウエスギ『そうだったのか』


 ノブナガ『あのころから、

      学校のこと話したり、なんか、

      明るくなった。

      あと、笑うのもふえた。

      たぶん、

      ウエスギさんのおかげだと思う。

      どうか……、 

      姉ちゃんを、 姉ちゃんを、

      おねがいします… … 」




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 とぎれとぎれに表示されるメッセージ。

 ノブナガの一意が、ぼくの真中をゆさぶった。

 そのメッセージの向こうに、

 幼い少年が一人、

 泣いている姿が想像できた。


 ふいに、暗い記憶の底へ落とされた。

 遠い日の記憶がよみがえる。

 胸が疼きだす。

 それから、肚に言葉がおりてきた。

 最も嫌いで憎みつづけた人間、

 父の声だった。



 ──令也。女の子を守れる、

   強い男の子になりなさい。



 ぼくは、守る。




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 ウエスギ『ノブナガ、約束する』

 


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 念じるように詠んだ。


「──詠唱

   内側 此の世の如し

   外側 彼の世の如く 

   空間隔絶魔法 ドームバリア──」



ゴン! ゴン! ゴン! ゴン!

ゴン! ゴン! ゴン! ゴン!

ゴン! ゴン! ゴン! ゴン!

ゴン! ゴン! ゴン! ゴン!

ゴン! ゴン! ゴン! ゴン!



 石扉が封鎖する、重厚な効果音が鳴り続いた。

 スノーナウは足を止め、つぶやいた。


「冒険者ウエスギよ……。

 貴様、なにをしておる?」




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  《空間隔絶の魔法 

   効力時間 残り 29分57秒》



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