29-2 黒竜
コロン。
視界左下、LINEの通知。
また、今井からだ。
盾に身をひそめ、ぼくはメッセージを読んだ。
画像が添付されていた。
開いて、写真を見た。
ぼくと今井が写っている、二人の写真だった。
あの時、写真を撮っていたのか。
木が折れる音がしたので、辺りを見回した。
前方の森からも、黒竜の一群が襲来した。
──────────────────
ノブナガ『ウエスギさん。
黒竜を無視して、姉ちゃんを
探してください!』
ウエスギ『わかってる! もうすぐ来る!』
──────────────────
白んだ東の空の水平線に、
小さな羽ばたきが目視できた。
二つの翼を優雅にはためかせ、
こちらの方へやって来る。
「なんて、大きな鳥だ」
そいつは頭上を旋回しながら下降し、
低空飛行で草原をすべり速度を下げた。
まるで空を飛ぶ恐竜だった。
そいつがぼくの正面を通過するとき、
大きな背中に飛び乗った。
鈍い青緑色の片翼は5メートルを超え、
優々としたフォルムに瑠璃色の眼光が耀く。
魔法で呼んだ、大鷲。
青碧の大鷲だ。
「たのむ、大鷲よ! 運んでくれ!
冒険者スノーナウのもとへ!」
黒炎から逃れ急上昇し宙に舞った。
風圧が凄まじく呼吸すらままならない。
落下しないよう大鷲の背の上で、
ぼくは足を踏んばりバランスを保った。
まるでサーフィンでもするかのようだ。
真下を見たら、
黒竜の炎がイルミネーションのように、
微小に灯っていた。
上空での飛行が安定し、ぼくは正面を向いた。
目に飛びこんできたのは、壮大な自然風景だった。
大草原には森が点在し、
地平線まで威風堂々たる山脈が連なっていた。
ときより雲の中を突き抜け、視界が遮られた。
風圧のせいで呼吸がしづらく苦しい。
猛スピードで大空を飛んでいる。
その全能感と恐怖で、
ぼくは身体が強張り足がすくんでいた。
「信じられない……
ぼくはいま、本当に、あの、
VRボックスにいるのか……」
これらは仮想空間での疑似体験に過ぎない。
実際は5メートル四方の狭い部屋にいる。
頭脳では理解しても、体感がリアルなため、
偽物なのか本物なのかあやふやになっていく。
「どうでもいい!」
雑念を払うかのごとく、ぼくは頭を左右に振った。
どちらが現実かなんてどうでもいい。
いまはゲームの世界に没入して、
早く今井を探さなければ。
時間がない!
「──詠唱 神の眼 ゴッドアイ──」
VRグラスが望遠レンズに切り替わった。
暗いので明度も上げ、
360度を見渡し血眼で探索した。
北の方角、朝闇のなか、
黒い塊が蠢いているのを目撃した。
「あれは!」
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