28-3  私が私であるために





「ウエスギさん。

 スノーナウに会うための、作戦を説明します」


「頼む」


 ノブナガは夜空の月を一瞥し、話しだした。


「レベル100を超える、S級大賢者になれば、

『シェア・プレイス・フレンズ』という、

 転移魔法が使えます」


 ぼくは英語を訳して考えた。


「シェア・プレイス・フレンズ。

 共有、場所、友人。

 その魔法で何ができるんだ?」


「冒険者フレンズの、

 半径、30キロ以内にワープできる、

 S級大賢者の、転移魔法です」


「ぼくはレベル1だから使えないぞ」


「わかってます。

 オレはいまから切腹して死にます。

 それから、メモリースーベニアを発動します」


 ノブナガの後方にある森が風でゆれていた。

 

「持っているのか?」


「はい。80階を攻略した冒険者に、

 一人一個ずつもらえます」


「そうか、メモリースーベニア。

 なるほど、そういうことか」


 ノブナガの作戦が把握できた。

 メモリースーベニア。

 死ぬまえに使用すると、

 経験値を他者に受け継がせる効力があるとか。

 今井が以前、アイテムのことを語っていた。


「ノブナガ。切腹って、痛くないのか?」


 心配になりたずねた。


「だいじょうぶです。

 没入感度、0パーセントに設定しています」


「そういうことか」


「では、切腹するまえに、謡い舞います」


 ノブナガは扇子を握り、謡い舞う支度を始めた。


「は? 時間がない。

 5時がタイムリミット、もう1時間半もない」


「死ぬまえには、謡い舞え。

 姉のホワイトフラワーとの約束なのです。

 ウエスギさんは、

 魔法辞書で呪文をおぼえてください。

 声にだして言わなと、発動できません」


 そう話すと、ノブナガは謡い舞った。

 美しかった。

 幼い声色が即座に激変し、

 真の死の覚悟を漂わせるオーラがあった。



「人間五十年 下天の内をくらぶれば

 夢幻のごとくなり 

 一度生を得て 滅せぬ者のあるべきか」



 ぼくは魔法の使い方を知らない。

 視界左にある、パープルの文字パネル、


《魔法辞書》


 指で押した。

 辞書のイラストが現れた。

 表紙には、鍵穴の絵が描かれていた

 どこか見覚えがあるイラストだった。

 

「黒い背景に、鍵穴の絵。これは……」


 今井の筆談ノートと同じ絵。

 懐かしい。

 図書室での思い出が、一気に心を駆け抜けた。

 彼女との記憶にふれるだけで、

 胸が熱くなる。

 ぼくは、指でスワイプさせ、

 魔法辞書のページをめくった。

 使い方の説明を読んだ。

 魔法を覚えようとしたけど、

 大量すぎて手に負えない。

 検索機能で、

 使用頻度が高いものから順番に目をとおした。



「上杉さん。オレは死ぬので、

 24時間は再ログインできません。

 ラインで通信しましょう」


 舞を終えたノブナガが言った。

 ノブナガに、LINEのアドレスを伝えた。


 ノブナガは北面に座した。

 懐の短刀を腹に突き刺し、十文字に割った。

 介錯はいらないとのこと。


「メモリースーベニアよ!

 ノブナガの能力を、

 冒険者ウエスギに、受け継ぎし給え!」



 キイュ──────────ン。

 効果音が鳴ると、

 切腹したノブナガは光の粒となり、散った。

 残光の中核に、親指ほどの、

 正六面体のクリスタルが煌めいている。

 メモリースーベニアだ。

 それは飛散したノブナガの粒を吸入していた。

 クリスタルが光の粒を集め終えると、

 突然、こちらに飛来した。

 ぼくの眉間に食い込み、

 ぼくのアバターが、

 パープルのオーラに包まれた。




──────────────────



 ノブナガ『ウエスギさん、ノブナガです』



──────────────────



 視界左下に通知が表れた。

 ノブナガからの、LINEだ。



──────────────────

 


 ノブナガ『仮想リュックの中の、

      アイテムを装備してください』



──────────────────




 ぼくは《仮想リュック》のパネルを開いた。

 引き継いだアイテムを選択し、

 武具を装備した。

 自分の能力を確かめる。

 グリーンの文字で情報が列挙された。











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