28-2  私が私であるために




 旅立ちの丘に立っていた。

 ノブナガとの待ち合わせ場所だ。

 ぼくは、前を見た。

 眼前にある全景に、目を疑った。

 上空には暁月が煌々と浮かんでいる。

 西の空には星がチラチラと瞬き、

 東の水平線には薄明が洩れていた。

 夜明けが迫っている。


 眼下には、大木が茂る森林が広がっていた。

 夜から目覚めるように、

 木の葉がザワザワしている。

 おだやかな風が肌にふれて、

 野生の緑の匂いが、ぼくの鼻腔をくすぐった。

 


「リアル、リアルすぎる。

 これが、没入感度100パーセント設定か」


 おもわず感嘆の声をあげた。

 まさしく正真正銘、

 リアル・ファンタジー・ワールド!

 ぼくの知覚は完璧に仮想空間に接続して、

 異世界に来たような感覚に襲われた。

 


「ウエスギさん、ですね」


 後ろを振りむくと、

 大柄で白装飾を着た武士が歩いて来た。

 見た目で、今井の弟のアバターである、

 ノブナガだと察知できた。


「ああ。君がノブナガだな、よろしく頼む。

 作戦を教えてくれ。時間がない」


「はい」


 鍛えあげられた肉体に、

 立派な髭をたくわえたノブナガ。

 声は、幼さがのこる男の子だった。

 おそらく地声だろう。


「オレたちのパーティーに、入団してください。

 そうしないと、なにもできません」

 

 視界上部にイエローの通知が点灯した。




──────────────────



 〈パーティー名 『ジェミニジェミニ』 から 入団の招待状が届いています〉

 


 〈入団のための 誓約を 詠唱してください〉




──────────────────




 誓約の文章が表示された。

 知っている内容だった。

 あの夏の日、放課後、

 内申同盟を結んだとき、

 今井が口にしたものだった。

 ぼくは、詠唱した。


「──我が守護なる星座、ジェミニよ

 神の名のもと、

 荒ぶる冒険者が集い、聖戦に真向かう

 天地神明に誓い、血の同盟を交わす時──」



 詠唱を終えると、次の表示がでた。




──────────────────




〈入団条件を 確認してから 受諾してください〉



 【ジェミニジェミニ 入団条件】


  わたしたちのパーティーは、

  ゲームの完全攻略が目標です。

  賞金2697万円を獲得するためです。

  わたしたちの仲間、

  冒険者ホワイトフラワーは、

  難病のため、 

  十八歳でこの世を去りました。

  私たちは、難病治療に取り組む団体に、

  賞金の全額を寄付します。

  治療の研究開発が、

  少しでも早く進歩することを望みます。




──────────────────




 入団した。

 目が熱くなり哀切だけがこみあげた。










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