20-5 自殺管理法の成立





 『政府が自殺を管理すべきか?』




 自殺管理法に中立派であった最大与党は、

 世論に迎合し、賛成派にまわった。

 名目の第一は、

 ながらく望まれていた、

 安楽死の合法化を認めることにもなる。


 第二は、

 他人の命を巻きこむ、

 無理心中の事件を減少させるため。


 第三は、

 自殺系サイトなどを利用しての、

 自殺幇助や殺人事件の防止のため。


 第四は、

 違法薬物である自殺薬の撲滅と、

 反社会勢力への資金流入の阻止だ。


 強い世論の後押しもあり、

 令和18年8月、

 自殺管理法は可決された。



【自殺管理法】


 十八歳以上の成人は、

 自殺を希望するとき、

 政府の管理施設で自殺することができる。



 日本社会は──死にたければ、

 いつでも安らかに死ねるシステムをつくった。


 自殺管理法が成立した。

 政府が国民の自殺を認める国は、

 世界中で、日本が初めてだった。

 この法律について、

 様々な陰謀論がネットに上がっていた。




──────────────────



⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔



 THE 陰謀論の掲示板!!!!


 お題 【 自殺管理法の成立 】



・安楽死を認めず、いきなり自殺管理法はおかしい

・世界政府である、WHOの命令です!

・日本は実験場にされてないか???

・1945年以降、この国に主権などありません

・なんでーや?

・他国の軍隊の駐留を許し、

 依存している国のことを、植民地の国と言います。

・やっぱ暴力か。私設の軍隊を作るか

・奴隷のトリセツ

 奴隷に、自分が、奴隷であると自覚させないこと!

・植民地で生まれ、

 植民地の奴隷として、死んでいくのかーー

 かなぴ〜〜

・国民が望んだことですからね

・マスコが洗脳した

・マスメディアを仕切ってるのは、どこ?

・世界の闇の支配者だよー



⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔



──────────────────




 一年前の夏、

 ぼくと小嶋と今井で議論した、

 自殺管理法が成立した。


 当時の法案に記されていた、

『特定の条件を満たした場合』

 の部分が削除された。

 十八歳になれば無条件に、

 病院で安らかに自殺ができる。

 これによって、ぼくは、

 自殺者が特段に増えることはないと推測する。

 もともと自由に死ぬことはできたし、

 生死の決定権は、

 個人の意思にあるのは変わらない。


 自殺管理法は正しいのか?


 ぼくにはわからない。

 人は信じたいものを正しいとする。

 そして、信じるものを失うと、

 人は、開花する。


 時代の移り変わりからくる価値観の変化、

 そうとしか受けとめようがない。

 過去の非常識が、現在の常識となる。

 現在の非常識が、未来では常識となる。

 人間の道徳や倫理は曖昧なものだ。



 法律の施行は3ヶ月後。

 政府が認定する病院に、

 自殺管理の施設が併設される。

 ベッドの上で腕を差しだせば、

 機械がオートマチックに投薬してくれる。

 点滴のように即死薬が血管に注入され、

 安らかに眠るように、死ぬことができる。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る