メモリー・スーベニア

21-1 メモリー・スーベニア




 キラキラキラキィ────ン。


 着信音がなった。

 聞き憶えのある音だった。

 ぼくは、シャープペンをおき、

 スタンドライトを消した。

 机上のスマートフォンを手に取った。


 流れ星のような、珍しい効果音。

 二年生のころ、

 今井のスマートフォンから聞こえた音と、

 同質だと勘づいた。

 これが鳴った後、いつも彼女は、

 困惑したような顔つきで黙りこんでいた。


 勉強を中断した途端、

 ぼくは、秋の虫が鳴いていることに気づいた。

 手元のスマートフォンの画面をのぞく。




──────────────────



 《冒険者スノーナウが 通信の応答を要求しています ログインしますか?》



──────────────────




『リアル・ファンタジー・ワールド』の

 アプリからの通知。


 あたかも、

 今井とぼくを引き離すように鳴っていた、

 流れ星の着信音。

 あれはVRゲームからの

 仲間の呼び出し音だったのか。

 その仲間が、

 おそらく彼女が言っていた約束の人、

 恋人だろう。


 画面の文字を見ながら、少しドキドキしていた。

 今井から、

 いや正確にいえば、スノーナウからの通信だ。

 目をつぶると、

 文化祭で見た彼女のエプロン姿がちらつく。


 スマートフォンでログインし、

 ゲーム機能の《ファンタジー通信》だけを、

 オンにした。




──────────────────



 スノーナウ『冒険者ウエスギよ。

       ひさしぶりだな』



──────────────────




 スノーナウからだった。

 ぼくはキーボードをタップし、文字を入力した。

 音声通話ではないから。




──────────────────




 ウエスギ 『スノーナウ。おひさしぶりです』


 スノーナウ『貴様、どこでなにをしておる? 

       冒険者の泉で、探したがおらんぞ』


 ウエスギ 『家で勉強しています』


 スノーナウ『またまた軽いペンを持ち、

       親指と人差し指の筋トレか?』


 ウエスギ 『まあ、そうとも言えます』


 スノーナウ『闇の勉強という、

       現実逃避ばかりしておるな』


 ウエスギ 『趣味の息抜きです』


 スノーナウ『勉強は1日30分まで。

       母上と指切りげんまん、しただろ。

       ウソつくと、闇の教科書をとりあげ、

       ビンタしてお尻ペンペンじゃ!』


 ウエスギ 『ほどほどにしときます』


 スノーナウ『うむ。そうだな、

       貴様、この前のテスト、

       また、1位だったな』


 ウエスギ 『はい』


 スノーナウ『愚か者!

       あれは現実逃避ランキングだぞ。

       目をさませ!』


 ウエスギ 『君は、数学は7位だったけど』


 スノーナウ『あれは趣味だ。

       息抜きも大事だろう… …う!』


 ウエスギ 『大事です』


 スノーナウ『貴様に現実逃避の説教をしたくて、

       通信したのではない』


 ウエスギ 『何かあったのか、スノーナウ?』




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