20-4 自殺管理法の成立




 夏がまたひとつ過ぎた。

 向日葵が花びらを落とす時期、

 物騒な事件が社会を震撼させた。

 大都市での無差別殺人だった。


 地下鉄の構内にガソリンを運び点火し、

 46人を巻きこむ無理心中の殺人が起きた。

 ついで、犯人が歩行者天国で通行人を、

 次々と刃物で刺し殺す残酷な事件も連発した。

 犯行後に犯人が自害するケースが多かった。

 いずれの殺人犯も精神病を患っており、

 犯行前から「死にたい」と、

 医師に相談していたという。

 また、電車に飛びこみ自殺をして、

 その四散した遺体に激突し、

 ホームにいた乗客が死亡する事故も起こった。


 また、

 自殺薬を服用しての死者も増えていた。

 自殺薬とは、

 麻酔系と意識喪失系の成分で生産された、

 合成薬物のこと。

 5ミリの丸く白い錠剤。

 その錠剤を飲むと、

 苦しむことなく、安らかに、

 眠ったまま死ぬことができる。

 それらは、

『ゴッド・ラブ・メディスィン』

『愛の神薬』

 などと俗称されていた。

 自殺薬は巷で大流行していた。

 中学生、高校生が自殺薬を飲み、

 死ぬケースが頻発していた。


「異世界に転生します」

 そんな遺書を残し、

 毎月10件も超える勢いで自殺していた。

 まるでゲームをやめるような、

 安易な行為に感じた。

 それ以上に、

 高齢者の間でも利用が拡大していた。

 貧困と孤独が原因とされた。


 さらに、カルト教団による集団自殺も起きた。

 教団が自ら自殺薬を作り、

 希望する信者に、救済と称して配っていたのだ。

 100人以上が死亡しており、

 その教団は、

 反出生主義を教義としていた。


 これらの事件に連鎖するかのように、

 国民的アイドルの自死も相次いだ。

 世間に暗い影をおとし、

 ここ一年間で、

 自殺薬を服用しての死亡者は2千人を超えた。

 薬は一錠、10万円で

 インターネットや繁華街で安易に入手可能。

 無論、違法薬物である。

 先日の警察発表では、

 反社会組織から押収した自殺薬は20万錠。

 末端価格は200億円にのぼる。


 日本で、年間自殺者の数がはじめて、

 10万人の大台を超えた。

 これらのセンセーショナルな騒動を、

 マスメディアが連日しきりに煽った。

 令和18年のトレンドワードは、

 

 【自殺の品格】


 自殺するなら、他人に迷惑をかけずに逝こう!

 こんなスローガンを掲げ、

 印象操作により、自殺は悪くはない。

 そう、大衆に刷り込んでいるように思えた。

 こうした一連のながれを背景に世論が沸騰し、

 ある議論に拍車をかけた。




 『政府が自殺を管理すべきか?』










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