33-1 最終話  月

   



 青い空、

 白い雲。

 アスファルト、

 キラキラな光の破片が散らばっていた。

 まぶしい日差しのなか、

 セミは全身全霊で愛の歌を叫んでいる。


 この大合唱は、何億年も前から、

 地球で生きていたセミから続いている。

 そして、ほくが

 少年時代に耳にした、響きを経由して、

 現在も続いている。


 ──幾千の夏をこえて。

 命が連綿とつながっているように。




 丸い花壇には向日葵がならんでいた。

 黄色い花びらをなびかせて、

 太陽の行方を探している。

 照りつける日光をうけて、

 ぼくは、目を細めてにじむ汗をぬぐった。


 いったい、今日は何回目の夏なのだろう。

 そしてあと何回、

 ぼくは夏を迎えるのだろう。

 この季節が来るたびに思い出す


 君がいた、夏の光を ──




 突然、セミの大合唱が途絶えた。

 空、雲、光、風、音、熱。

 幾度もとおり過ぎてきた夏の風景。

 ぼくは君を待っている。

 まちぶせだ。


 スマートフォンで検索した。

 十八歳の誕生日に教えてくれた、

 君の故郷の星について。




 ポルックス。

 ふたご座で一番、明るく光る星。

 クワガタの左目にあたる、君の星だ。

 右どなりにある星はカストル。

 星座にまつわる神話がある。


 戦いで命を落とした兄のカストル。

 その死を受け入れることができない、

 弟のポルックス。

 彼は神々の王であるゼウスに懇願した。


『生まれた時も一緒で、死ぬ時も一緒でありたい』


 二人はともに夜空に昇り、

 ふたご座になったという伝説がある。













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