32-4 時をもどす魔法




 十字の窓からあふれる青白さに、

 赤い光が混ざっていく。

 踊り場は幻影のごとく寂滅し、

 空間が拡大していく。

 君とぼくの影が、地面に長く伸びていく。

 拓けた眼前には、空と大地が照らされる。

 草原に二人でならび、光源を探した。

 ぼくたちの気持ちに感応するかのように、

 東の水平線から世界で一番。

 聖い太陽が昇った。




──────────────────



  《空間隔絶 魔法

   効力時間

   残り 00分49秒》



──────────────────




「今井、向日葵が咲いていた、丸い花壇で、

 また会いたい。約束してほしい」


 ぼくは告げた、ちいさく、君はうなずいた。



「はい、約束します」



 蕾がほころびて、

 白い花びらが咲くように。

 ふわっと君は笑った。

 



 ぼくと今井のアバターが半透明になり、

 つぶつぶの光の粒子となり消散していく。

 ログアウトした。







 視界の左下、

 新しいLINEの通知が点灯していた。

 ぼくは、それを読んだ。





──────────────────




 今井『PS 2  上杉くんへ


    あっ、忘れていた(すまん)

    秘密を教えます

    三年生の冬、校舎の前で

    いっしょに、初雪を見ましたね

    雪合戦は、わたしが勝ちました

    あのとき、

    あなたに呪いをかけたのを

    おぼえていますか?

    忘れたとは言わせません

    では、呪いの効力を教えます  

    それは……




    ──もし、

   生まれ変わることができたら

    また、あなたにあいたい 』




──────────────────




 現在時刻、5時。

 今井雪からの、

 最後のメッセージだった。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る