時をもどす魔法

32-1 時をもどす魔法




 空を仰いだ。

 紺色の夜空に、赤、橙、黄の光が混ざっていく。

 雄大な朝焼け。

 水平線から洩れる真新しい光明、

 稜線の裏には太陽の上端がせまっていた。

 森は眠りから目覚め、

 小鳥がさえずり一日のはじまりを歌っている。




──────────────────



  《空間隔絶 魔法 

   効力時間 

   残り 09分59秒》



──────────────────




 視界下が点滅した。

 残り時間、

 10分の合図を知らせた。

 時間がない。

 ぼくは現在時刻を確認した。

 午前4時41分。



「上杉さま……ありがとうございました。

 もう、大丈夫です」


 よそよそしく後ずさりし、

 今井の表情から発する色は、拒絶を放っている。


「勝負はつきました。

 今井さん。あなたが、

 いま、どこにいるか教えてください」


「忘れました……忘れました……

 記憶がありません」


 赤くなった目に、

 泣きはらした顔を右腕でふさいだ。


「ドイツ行きの、

 飛行機に乗っているんですか?」


 ぼくはたずねた。


「記憶がありません……」


「東京にいるのですか?」


「記憶がありません……」


 かぼそい声で今井が答えた。

 心を閉ざしていた。



「まだ記憶喪失が、治りませんか?」


 高校時代に、今井が

 記憶喪失になったことを思い出しながら、

 ぼくはきいた。


「なおりません。

 なおりません。記憶喪失です……」


 左右に首を振り、

 下をむいたまま黙りこくった。



「それならば、ぼくは賢者だから、

 あなたを治療します」


「えっ?」


 チラリと今井がぼくの方見た。


「時をもどす魔法で。

 今井さんの、忘れた記憶を思い出させます」



 ぼくには考えがあった。

《魔法辞書》オプション機能から、

 ゲームとスマートフォンのデータをリンクさせた。

 ついで空間生成の魔法と、変身魔法を唱えた。



「──詠唱 時の神よ

   色即是空 空即是色

   空間生成魔法  データ 049──」



「──詠唱 美麗の神よ

   コスプレ変身魔法 データ 172──」


 

 ピアノのメロディーが響いた。

 母校である、

 東京都立西第一高等学校の校歌だ。

 サビの部分がピアノ演奏でながれるなか、

 ぼくと今井の身体が、

 ネイビーブルーの光を放つ。

 視野一面が明るくなり、

 朝焼けと大草原がうすれ消えていく。


 そして、

 見覚えのある景色が、目の前に現れた。












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