30-3 決闘




 魔術の呪文が表れた。

 すべて表示させ、調べた。

 ホワイトフラワーの魔術なら、

 今井の心を、

 改心できるものがあるかもしれない。

 白い文字で書かれた呪文の文字が、

 眼界を埋めつくす。

 ぼくは探した。



 文字 文字 文字 文字 文字 文字 文字 文字 文字 文字 文字 文字 文字 文字 文字 文字 文字 文字 文字



 右から左へ流れる大量の魔術の文字、   

 どこかに今井雪の、

 心をゆさぶる魔術があるはずだ! 



 文字 文字 文字 文字 文字 文字 文字 文字 文字 文字 文字 文字 

 

 知っているワードがあった。

 見つけた!

 これだ!



「さらばだ、冒険者ウエスギ!

 トドメを刺し、隔絶魔法を解く!」


 叫びながらスノーナウが突進してくる。

 せまりくる氷剣、

 聡慧の杖を天にかざし、ぼくは読みあげた。



「──詠唱 いでよ!

   最強どんぐりコマ! 具現化魔術──」

 


 キラキラキラキィ────ン! 

 流れ星のような煌びやかな音色が鳴った。

 するとぼくの前に、

 2メートルはあるオブジェクトが出現した。

 どんぐりコマだった。

 茶色く光る、どでかいドングリだ。

 どんぐりコマ。

 このワードにぼくの直感が反応したのだ。



「おっ、おぬし、なんで、その魔術を……」


 足を止め、スノーナウが明らかにたじろいだ。

 なぜならホワイトフラワーの魔術。

 おもいれのある

 姉の魔術を使ったからだろう。


「ぼくは、ノブナガから、

 ホワイトフラワーの能力も継承している」


 ホワイトフラワーは死ぬまえに、

 ノブナガに経験値を授けた。

 二年生の終わりの時、

 ノブナガのレベルは32だったはずだ。

 それが136まで上昇していた。

 それから、

 ノブナガは、ウエスギに経験値を授けた。

 だから、

 ぼくは二人の能力を受け継いでいる。

 メモリー・スーベニアの力で。



「きっ、貴様に、

 その魔術を使う資格はない!」


 ぼくの背丈を超える、大きなどんぐりコマ。

 銃弾のような形状に、

 茶色い光沢を放っていた。


 今井の十七歳の誕生日に、

 ぼくがもらった物と同じ形をしていた。

 図書室で、

 筆談ノートからコロンと飛び出した、

 どんぐりコマ。

 奇跡のような時間に、思いを馳せるだけで、

 自分の中心から強い力がふきあがる。

 ぼくは君を守る。

 万感の気持ちを込めて叫んだ。


「最強のどんぐりコマよ!

 一糸乱れず、大回転せよ!」



 ゴオオオオオオオオオォォ────ッ。



 石臼を挽くような重たい轟音が響いた。

 一寸も中心軸をぶらさずに、

 どんぐりコマが回転を始めた。

 ちぎれていく地面の草花は紙吹雪となり、

 どんぐりコマは、

 スノーナウの真正面へと猛進した。



「うけてたつ! 絶対零度! 氷の剣武!」


 かけ声とともに突きの連打攻撃、

 氷剣の華麗なる軌跡が閃く

 パキィ────ン! 

 楽器の弦が切れたような硬い音がなった。

 氷剣が砕けて、

 銀色の火花をちらし飛散した。


「くっ!」


 どんぐりコマが、

 スノーナウの胸部に体当たりした。

 彼女は数メートル後方に跳ね飛ばされ、

 地に背をつけたが速攻で立ち上がる。


 戦いの最中、ぼくは気づいていた。

 ホワイトフラワーの魔術を唱えた直後、

《仮想リュック》に

《極秘アイテム》と書かれた、

 隠しパネルが出現したことを。



「氷の国の王から賜りし、絶対零度の氷剣を。

 貴様! ゆるさんぞ!」

 

 恐ろしい形相で、スノーナウは、

 刀身の折れた柄を草原に投げつけた。


 ぼくは、先ほど現れた

《仮想リュック》の

《極秘アイテム》を開封した。


 

「このアイテムは、まさか……」












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