30-2 決闘
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《ウエスギ レベル 137
体力 29
魔法力 3058》
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視界上に、レッドの表示が速く点滅していた。
体力ポイントが残りわずか。
目論みがはずれた。
スノーナウがぼくに接近し、
攻撃をしてくるタイミングを見計らい、
稲妻魔法で反撃する戦略だった。
「おしいな。我は、雷すらも凍らせる」
スノーナウは円盾を掲げ、雷を防いでいた。
落雷が凍結していた。
天から糸のように垂れて、
流麗な音を鳴らし崩壊していく。
長方形の盾は、
まっぷたつに斬り捨てられ、
氷剣がぼくの胸部を斜めに斬りつけていた。
ゆらゆらと視界が歪み、ぼくは、
立っていられず草むらに倒れた。
「冒険者ウエスギよ、
貴様の戦いに、敬意を捧ぐ」
スノーナウの声がなんとか認識できた。
「いますぐ隔絶魔法を解除し、
ログアウトしろ。
あちらの世界に、帰るがよい」
じんじんと左半身が冷たく、
冷凍したように動かせない。
治癒魔法がなかなか効かない、
これが魔法剣士の攻撃力か。
胸とお腹にふれる原っぱが、
柔らかいベッドに感じて気持ちよくなってきた。
まずい。
混濁した意識のなか
身体の力が抜けていく ── … …
今井は本気。
今井の信念は本気なのだ。
彼女のメッセージを幾度も読んだ。
彼女にとって、
姉の存在は自分自身と等しい。
夏の日から、話し、語らい、共有した時間。
彼女の気質を、ぼくは、承知しているつもりだ。
かたくなで、透明で、
まっすぐで、純潔で、
凛とした瞳。
今井雪の、
信念のさきにあるものは──……
──── 殉死 ────
目先の草が頬をかすめた。
さわやかな緑の香り、
白い野花の蕾が一輪ゆれる。
シロツメクサ。
ぼくは、目を強引に上にやった。
今井の横顔だけがぼやけて見えた。
そこには、一人ぼっちで、
時空の迷宮に、
真実と虚構に、
魂のゆくえに、
迷子になってしまった少女がいた。
呼吸を整え心拍数を下げ、
ぼくは精神を鎮めた。
このままでは、
強制ログアウトさせられてしまう。
光の粒子となりこの仮想空間から消され、
現実のVRボックスにもどされてしまう。
おしまいだ。
喉が焼けるように熱く、
体中がズキズキと痛み苦しい。
どこかの神経組織がつぶれる勢いで、
思いっきり眼球に力をいれ、
暗転する頭脳を無理やり覚醒させた。
草原に転がる杖をつかみ、
よろめきながらも、ぼくは起き上がった。
なんとしてもスノーナウに勝ち、
今井雪の、
信念を超える!
たとえ、ぼくの、
命を引き換えにしても──
「冒険者ウエスギ。
貴様、あきらめが、わるいな」
「ああ……。
同志との、約束を、守らねばならない……」
「またか」
彼女ではないような声で返され、
顔を背けられた。
そんな今井雪の瞳にむかって、
ぼくは宣言した。
「内申同盟、第二条。
我々は、自分の志を信じて、
恐れずに挑戦する」
烈日の季節。丸い花壇。
向日葵の横にならび、
夏風にゆれる君が、
ぼくに、くれた言葉。
「記憶にない。
もう決着をつけよう。時間がない。
暗黒竜王を倒すことが、
我々の長年の夢だから」
そう言って氷の剣を構えた。
「ゲームを攻略するため……
ホワイトフラワーは、最後まで、
生きることを、選んでくれたのだ」
独り言のように小さくこぼした。
冒険者ホワイトフラワー。
今井の姉のアバターだ。
たぶん……彼女は自死を望んでいた。
今井の遺書から察することができる。
けれど、このゲームをクリアしようと
最後まで生き抜いた。
そうか、ぼくは、ひらめいた。
ホワイトフラワーは、S級魔術師だったはず。
《魔法辞書》を展開し、
《魔術》のページをめくった。
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