決闘

30-1 決闘





「暴力により、勝者が敗者を服従させる。

 それが、この世の掟。

 貴様を倒し、隔絶魔法を解除させる」

 

 百戦錬磨の荒々しい物言いで、

 スノーナウがブーツを一歩前に出した。


「ぼくが勝った時は、今井雪にもどれ。

 そして現実の世界で、

 どこにいるのか答えてもらう」


「……よかろう」



 スノーナウが返答した時点で、

 視界上が、レッドの戦闘画面に切り替わった。

 それは、

 賢者ウエスギと、魔法剣士スノーナウ。

 二人の戦いの始まりを告げた。




──────────────────



  《スノーナウ  レベル  151  

   体力     1294

   魔法力    2350》



  《ウエスギ   レベル  137     

   体力     581

   魔法力    6427》



──────────────────




 体力はスノーナウの半分以下だが、

 魔法力では、ぼくの方が圧倒している。

 ぼくは正面を見直した。

 スノーナウは氷の長剣を、

 しめやかに構え直した。

 冷酷無血な顔が張りついている。

 両眼からは鉄をも貫く意志がほとばしる。

 しじまに、殺気を感じた。


 今井は本気だ。

 どんな想いも言葉も、

 いまの彼女の心にはとどかない。

 今井雪の信念を動かすためには、

 まず、眼前に立つ、

 スノーナウに勝たねばならない。

 そう、ぼくは直感した。



「なぜ我が、疾風の絶対零度。

 その異名をもつか教えてやろう」


 スノーナウとの距離は2メートル弱、

 近すぎる。



「──詠唱 愚鈍なる現存

      氷の世界へ導く時──」



 背筋に寒気がはしった。

 ピリピリとした冷気が、

 空間を伝導するかのような感覚。


「なっ!」


 足下の野原が固まっていた。

 ぼくのブーツも凍りはじめ、

 凍気が膝まで這い上がり、

 足の感覚が、無い。


「終わりだ! 冒険者ウエスギよ!」


 すぐさま唱えた。



「──詠唱 緑の精霊よ

      命の息吹 百花繚乱──」



 地表の草花が一気に萌立つ。

 頭を超えて伸びていく葉が、

 前方の視野を覆い隠していく。

 あまたの茎が網のように、

 スノーナウの五体に絡みついていく。


 接近戦では不利だ。

 回復魔法で足を癒しながら、

 後退し、彼女から離れた。

 ぼくの走るスピードが上がっている。

 翼の生えたブーツの効果だ。


「おぬしの魔法力では勝てん! 氷の剣舞!」


 怒涛の氷剣さばきだった。

 身体に絡みつく植物を、

 ブチブチと斬り刻んでいく。

 拘束から解き放たれ、疾駆するスノーナウ、

 スピードが速すぎる、

 対処しなければ。ぼくは叫んだ。



「──詠唱 大気の精霊よ

   無限に迷える心霊 五里霧中──」



 寸秒に灰色の濃霧が大量に発生した。

 1メートル先の視界も見えなくなる。



「──詠唱 絶対零度 凍波──」



 霧がチラチラと瞬き氷の埃となり、

 視界が明けてくる。

 ジャリジャリと鎧が擦れる音、

 俊敏な足音が迫りくる、

 ぼくは魔法を唱えつづけた。



「──詠唱 土の精霊よ 千の形となり

      歌え踊れや 早暁の宴──」



 地表がボコボコと盛り上がる。

 地面の中から、

 人型の土の塊がうじゃうじゃと飛び出た。

 大量だ。それらは、

 ウエスギの形を模倣した土人形だった。

 ぼくとそっくり。

 ドーム内は千人のウエスギで活気づき、

 盆踊りが開幕した。

 分身系の魔法だ。

 スノーナウの声がつれなく響く。



「──詠唱 絶対零度

   偏在から凝結へ 氷槍──」



 3メートルを超える、

 氷の槍を立て続けに射出してきた。

 バコバコと土人形を矢継ぎ早に倒壊していく。

 分身にまじって踊りながら、

 ぼくは身を潜めた。

 けれど全て破壊する勢いだ。

 まずい、このままではぼくの位置が

 ジャギィ── ン! 


「ぐっ!」


 左腕に衝撃がながれた。

 スノーナウが放った氷の槍が、

 長方形の盾に衝突した。

 その攻撃をうけた途端、魔法が解けて、

 土人形がいっせいに崩れた。


「そこだ! 見破った!」


 ぼくは声をあげた。



「──詠唱 雷の精霊よ

   天誅と救済 鉄槌を落とし給え──」



「──詠唱 絶対零度 万物の氷結──」




 ピカァ────────────────────ッ! 




 瞬刻、視野がまっ白になった。

 耳が裂けるような雷鳴が轟いた。

 スノーナウが、ぼくに接近する瞬間を、

 狙っていた。

 だがしかし、失敗だった。

 ぼくは激痛をおぼえ、身体を確かめた。

 左肩から胸にかけて血が流れ、

 紫の法衣は引き裂かれていた。












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