28-5 私が私であるために
目の前を見た。
朝闇のなか、大草原が広がり、夜空があった。
月も光っている。
小川の水音が聞こえる。
草の香りがした。
ぼくは大自然の中、1人で立っていた。
転移に成功したのか。
視界右上に表示されていた。
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〈99階 最終階〉
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ここが、99階なのか、広い。
コロン。
視界左下に、LINEの通知が灯った。
ノブナガかと思いきや、ちがった。
気持ちが動揺した。
半透明のデジタルの文字を見直す。
今井からだった。
メッセージを見た。
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今井『今井通信。第4弾メール。
もう時間がないので完結編です。
わたしは地球服を脱ぎすてて、
ふたご座に還ります。
愛する者の魂に寄りそい、
見守ってあげたいとおもいます。
地球での冒険もおもしろかった。
楽しかった仲間との思い出は、
キラキラと胸にきらめいてる。
いま、こうやって、
過去を振り返ってみて、
生きるって、
なんだろう? と考えてみました。
人生って、
記憶宝石ゲーム、みたいですね。
大切な人と共有した時間が、
結晶化されて、記憶の宝石ができるの。
そしたら、たがいに記憶の宝石を、
プレゼント交換するの。
そして、からっぽの、
「こころ」の宝箱に飾りつける。
人生は、そんな宝探しの冒険ですね。
最後に……、
こんな、わたしですが、
心残りもあります。
上杉くん、あなたのことです。
まず一つは、つたえられなかったこと。
あなたに直接、
自分の想いを、つたえられなかったこと。
わたしの弱さであり、
臆病さであり、
勇気のなさでした。
悔恨の念だけを残しました。
もう一つは、
あなたを、好きになったこと。
あなたを好きになって、
未来を夢みてしまった。
虚構の世界もまんざらでもなく、
もっと生きてみたいと思ってしまった。
あなたへの恋心が、
わたしを、
生へと引きもどす、
強い力になってしまったのです。
あなたのせいで………
何年もつらぬいてきた、
わたしの、
鉄の信念がゆらいでしまったのです。
恋心を抱いて、
ゆらいだ気持ちのままで、
旅立たねばならない。
たったひとつの、未練となりました。
わたしは、
こういう矛盾した人間なのです。
人間万事塞翁が馬鹿。ですね。
記憶してください。
わたしは、あなたの心のなかで、
永遠に生きているから。
二度と会えないけど、
地球上のどこかの王国で、
今井雪は生きている。
そう、信じつづけてください。
そしたら、生きていようが、
死んでいようが、おんなじでしょ?
存在のカラクリというか、魔法ですね。
では、わたしは最後の聖戦にむかいます。
あなたがくれた、メモリースーベニア。
大切にします。
また会えたら、いいね
本当にありがとう
あなたが、わたしの 初恋でした
令和十九年 八月十五日 今井雪 』
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