私が私であるために

28-1  私が私であるために




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 今井『今井通信

    第3弾メールのはじまり

    はじまり。はじまりなんです

    ジャジャジャジャ─ ─ン‼

    前回のメール

    ラストのキメゼリフ。

    またこれ

    ↓↓↓

   「さよなら、永遠に……今井雪」

 

    じーんときたか? 

    ぐっときたか? 

    きゅんときたか?

    で、まさか、またまた

    おしまいだと思ったの?

    まだまだまだだだ、

    続くんじゃ──い‼

    また罠にかかったな

    フフフッ

    これが上級悪魔の力じゃ




 今井『コホン。

(咳払いをした。仕切り直しです)


 いきなりですが、

 ここからは素直に書きます。

 もう時間もないので。


 わたしは、

 秘密を抱えていました。

 だれにも、だれにも、

 明かさないと思っていました。

 しかし、

 あなたには打ち明けなければならない。

 わたしに、想いを、

 つたえようとしてくれたから。

 あなたの想いに、こたえるため、

 このメッセージで己を尽くします。



 まずは、理由を説明させてください。

 わたしが、あなたと適切な距離をたもった、

 理由です。

 わたしが、あなたから逃げた、

 理由です。

 わたしが、あなたを忘れようとした、

 理由です。

 わたしが、あなたを拒絶した、

 理由です。

 

 すべては、

 わたしの「信念」によるものです。

 わたしがわたしであるための、「信念」です。

 本気で書きます。




 わたしには、双子の姉がいました。

 姉は病気をもって生まれてきました。

 自由に動けない体だった。

 自分の意志で体を動かせなかった。

 生きることが、

 とってもとっても大変でした。

  

 幼いころに疑問をもちました。

 わたしは丈夫な体で、

 いっぱい笑って楽しい。

 なのに、どうして、

 姉は、苦しまなくちゃいけないの?


 わたしたちは難産で生まれてきました。

 母のお腹の中で二人でいるとき、

 わたしが栄養を奪いすぎたせいで、

 姉が病気になったのかもしれない。

 そんな漠然とした責任を感じていました。


 中学生、高校生と成長するとともに、

 わたしだけが幸せであることに、

 罪悪感を抱えて生きてきました。

 姉は、水一滴すら飲むことも、

 ままならない日常だった。

 世の中の不幸を、

 一人でしょっているように感じました。


 私たち姉妹は、

 この世界に生まれてしまう、

 理不尽さを憎んでいました。

 そんな気持ちのなかで、

 わたしは、いつだって姉のそばにいました。

 どんなときも、寄りそいたいと望みました。

 仲良しでならんで輝いている星、

 ふたご座みたいに。


 わたしは、

 姉と一心同体で生きてきたつもりです。

 そして決めたのです。

   

 いつまでも、姉といっしょに生きていく。


 歳月を積み重ねるとともに、

 決意は絶対にゆらがない、

 覚悟となりました。

 固い鉄の「信念」となりました。



 そんなわたしたちの生活のなかで、

 VRグラスは救いだった。

 グラスをかけて仮想現実にいれば、

 姉は不自由な体から、自由になれた。


 VRゲーム、

 リアル・ファンタジー・ワールドは最高でした。

 カワイイ服を着て街を歩けた。

 買い物をしたり旅行にも行けた。

 人と出会い別れ、

 戦い成長していく充実感もあった。

 生きる目標をもち、人なみの幸せを経験して、

 夢をいっぱい叶えた。


 ベッドに寝たきりで、

 動くこともできない現実。

 そこは、虚構の世界になった。


 わたしたち姉妹にとって、

 VRゲームの仮想の現実のほうが、

 価値のある本物の、

 現実となっていったのです。

 

 ですから、わたしは選んだ。

 虚構の学校世界で生きる、

 上杉くんではなく、

 仮想のゲームで生きる時間を選んだ。

 

 これが、あなたを拒絶した理由です。





 わたしは生涯。

 人を好きにならないと、決めていました。

 恋をしないと、決めていました。

 将来の夢をみないと、決めていました。

 なぜなら、

 それよりも大切な約束があるからです。


 姉には、最初から未来はなかった。

 姉は、死ぬことをこわがっていた。

 だから、いつもそばで、

 ──わたしは言いきかせました。

  

「死ぬことを、

 こわがらなくても、だいじょうぶだよ」


「あなたが死んだら、

 わたしもいっしょに死ぬから」

 

「死という仮想世界を、いっしょに冒険しようね」

  

 姉と、わたし。

 指切りげんまんして、

 二人だけの約束をしていました。

 

「なんで、生まれてきたの?」


 苦しむ姉と、無力な妹が、

 幾年もの時間をかけて、

 培ってきた約束なのです。

 約束を果たすことが、

 わたしがわたしであるための

「信念」なのです。



 愛する人を失ったいま、

 もう、なんにもすることがありません。

 生きる理由がよくわかりません。


 あなたには、わたしの信念が、

 明白にのみ込めないかもしれません。

 それは時勢の推移からくる、

 人間の相違だからしかたがありません。

 あるいは、

 個人の持って生まれた性格の相違。

 そういったほうが確かかもしれません。


 わたしはわたしのできるかぎりで、

 この不可思議な、わたしというものを、

 あなたにわかってもらえるように、

 このメッセージで、己を尽くしたつもりです』



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 今井『さて、飛行機が離陸しました。

    小さな窓から雲海を眺めております。

    雲の上って、

    ドラゴンの住処にそっくりで絶景ですね』











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