27-2 宣誓
ぼくは立っていた。
うす暗い個室の中央に。
目に見えるのは5メートル四方の黒い壁だ。
ノブナガの言うとおり、
近所のVRボックスに来た。
部屋でのプレイでは、力が発揮できないとのこと。
準備は万全だ。
VRコントローラーはレンタルした。
VRグラスにヘッドフォンとマイクを装着。
VRグローブをはめ、
右手にVRスティック、
左手にVRシールドを持つ。
頭のてっぺんからつま先まで、
VRタクタイル全身スーツを着ている。
あいているのは鼻と口だけ。
アニメでよくある、
スタイリッシュなデザインの黒系の戦闘服だ。
腰には刀の形したVRコントローラーを帯刀し、
靴も専用ブーツに履きかえた。
すべてはノブナガの指示した装備と設定だ。
「没入感度、100パーセントにしてくれ!」
自室では、20パーセント以上に設定できない。
だからVRボックスに来たのだ。
これでぼくの、
味覚以外の感覚器感は閉ざされる。
現実を認識するための、
視覚、
聴覚、
嗅覚、
触覚は遮断され、
仮想世界へと接続する。
マイナー調の危険な警告音が鳴り、
視界にグレーの文言があらわれた。
──────────────────
〈あなたの知覚が ゲーム世界へ 100 パーセント つながります〉
「了解」
〈心身に危険を 感じた場合は ただちに VRグラスをはずしてください〉
「了解」
〈心拍数 呼吸数に 異常な乱れを 測定したとき 強制ログアウトします〉
「了解」
〈体力ポイントが 0になると 強制ログアウトします〉
「了解」
〈強制ログアウトの後 24時間以内は 再ログイン ができません〉
「了解」
〈没入感度100パーセント = VRボックス再現率 X VRコントローラー感度率〉
「了解」
〈冒険者ウエスギは 『リアル・ファンタジー・ワールド』に ログインしますか?〉
──────────────────
「ログイン!」
叫んだ途端、
華々しい効果音なった。
目前が真っ白な光で埋めつくされ、
ぼくは、ホワイトアウトした。
今井はいま、99階で戦闘中。
スノーナウがゲーム中に死んだら、
ゲームオーバー。
ウエスギがスノーナウに会うまえに死んだら、
ゲームオーバー。
接触する方法がもうない。
スノーナウに会い、
今井雪の心を動かせなければ、
ゲームオーバー。
今井は、自分の信念をつらぬくだろう。
現在時刻、午前、3時48分。
朝、5時を過ぎたら、
ゲームオーバー。
ゲームオーバー。
つまりそれは──
自殺管理施設のベッドの上で、
今井雪は、即死薬を服用する。
今井雪が、
この世から、消滅することを意味する。
コロン。
視界左下、LINEからの通知がきた。
メッセージ、今井からの3通目。
読んだ。
今井がぼくを、
拒絶した理由が書かれていた。
記憶をまさぐる。
彼女の一つ一つの言動が、
頭のなかでつながっていく。
わかった。
冬の雨の日、
階段の踊り場、
流れる旋律のなか、
今井の泪の理由がわかった。
メッセージの後半。
二年生の最後、
桜の下で彼女が言った、
約束の人。
その人への想いが綴られていた。
そして、今井が
あれほど自殺管理法に賛成していた、
その理由がわかった。
今井の、
魂の本意を知った。
ぼくは、何度も読み返した。
今井雪の、遺書を。
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