宣誓

27-1 宣誓




 右手で自転車のハンドルを強く握り直した。

 左手のスマートフォンの画面を、

 ぼくは見た。




──────────────────




 今井『今井通信。

    第2弾メールのはじまり。

    はじまり。はじまり! 

    ジャジャジャジャ────ン‼


    前回のメール。

    ラストのキメゼリフ


     これ

     ↓↓↓

   「さよなら、永遠に……今井雪」


    じーんときたか?

    ぐっときたか?

    で、まさか、おしまいだと思ったの? 

    は・ず・れ

    は!

    まだまだ続く──く! 

    罠にかかったな

    フフフッ

    これが上級悪魔の力よ



    わたし、

    さっきの卒業の手紙、読みなおした。

    はずい

    ポッ!

    あまりにもはずかしくて、

    顔から、

    火がでる魔法を習得してしまった。

    ぶおおおおお──────っ!』


 

 ────────────────── 



 今井『では、次のコーナーへ、いくよ! 

    ジャジャ──ン!

    上級悪魔の能力を発動させ、

    こっぱずかしい文章を紹介します。


    むかし、むかし、あるところに、

    傲慢で小生意気な人間がおりました。

    名前は、上杉令也。

    令和16年、4月。

    高校を首席で入学し、

    新入生の総代として宣誓をしたのだ。

    宣誓の文章を、

    学校のホームページからではなく、

    ある諜報機関から入手した。

    さらします。

    さらします。

    さらすんです。



「では、

 新入生代表、上杉令也さんの宣誓です」




──────────────────

──────────────────



    宣誓


 暖かな春風にさそわれて、

 運動上の桜も凛々しく咲いております。

 私たち新入生、二百四十五名は、

 東京都立西第一高等高校に入学しました。

 本日は、素晴らしい入学式を催していただき、

 心より感謝いたします。


 義務教育を終了し、

 喜びと不安をかかえております。

 本校を選んだのは、

 自らの意志と決断によるものです。

 私たちはすでに、

 自由と責任を手にした社会人です。

 社会を担う一員として、己の言動に責任を持ち、

 自ら考え行動していきます。


 近年、皆様もご存知のとおり、

 祖国は国難に直面しております。

 外交、経済、教育、医療など、

 多様な難題を有し、亡国の危機であります。

 私たちは三年生になり、

 十八歳で選挙権を得ます。

 それにより、

 諸問題に関与できる権利と責任を持ちます。

 貴重な一票です。

 しかし同時に、

 民主主義の制度において、

 個人の力の限界と、無力感を覚えています。

 混迷する現代社会で、どんな希望を抱いて、

 生きていけばよいのでしょうか。 

 私は、こう考えます。


「己の信念にもとづいて、今日一日を生きる」


 であると。

 外部的な要因に影響されるのではなく、

 己の信念を貫き、

 信念を体現して生きることです。

 信念とは、私が私であるために。

 不可欠なものです。

 では、その信念の本流とは何でしょうか。

 それは我が校の校訓が示しています。


『自主』『協調』『清純』


 これからの三年間は、

 自ら主体的に行動し、

 ここに集う仲間と協力し、

 先生方、先輩方のご指導のもと、

 成長していきます。


 清らかで純粋な志。

 各々の志にむかって、

 一生懸命に精進することを、

 新入生一同、ここに誓います。

 


 令和十六年四月  新入生総代 上杉令也




──────────────────

──────────────────




 今井『ポッ!

    ポッ!

    ポッ! 


    はずいっす

    はずすぎて

    顔が赤くなってもうた

    貴様も、お若かったの──の!

    どうだ

    こっぱずかしいだろ?

 



    コホン(咳払いをした)。

    正直に白状します。

    わたし……

    あなたの宣誓をきいたとき、

    強いものを感じた。

    うまく表現できないげど、

    ハートがゆさぶられた。

 


    あなたの宣誓を、

    三年間、

    スマートフォンにずっと保存していた。

    苦しいとき、

    迷ったとき、

    心がくじけそうなとき、

    なんべんも読み返してた。

    勇気をもらってた。

    ぜんふ、なつかしいな。   

   



    さて、ドイツ行きの飛行機に搭乗し、

    シートベルトを締めました。

    機内食が楽しみです。


    セミが脱皮して、

    地上で羽を広げるように。

    わたしも新天地で、自由に翔びます。

    もう二度と、

    あなたに会うことはないでしょう。

    ステキな思い出をありがとう。

    さよなら、永遠に……  今井雪』




──────────────────













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る