26-4 君を探して



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 ノブナガ『ウエスギさん!

      机のひきだしの奥に、

      封筒がありました!』


 ウエスギ『どんな!?』


 ノブナガ『「東京都庁 自殺管理法 支援課」

      と書いてあります!』


 ウエスギ『あけて!』

 



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   『自殺管理法』


 目に見える半透明の一文。

 ぼくはいま、

 悪夢の中にいるだけかもしれない。



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 ノブナガ『自殺管理施設、

      利用の申請書が入ってます!』


 ウエスギ『何月何日になっている!?』


 ノブナガ『申請日は、

      令和18年、12月23日』




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 はっとした。

 12月23日。今井の誕生日。

 高校三年生の12月、十八歳になった時、

 申請をしていたのか。

 可能だ。

 自殺管理法が成立したのは、令和18年8月。

 施行は11月から。

 誕生日の夜に、今井から初めての電話があった。

 あの時点で、すでに申請を済ませていた。

 自殺する準備をしていたのか。

 なんてことだ。ぼくは気がつかなかった。

 今井は、

 自殺管理法に賛成していたはずなのに。




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 ノブナガ『ウエスギさん!

      厚生大臣からの、

      自殺管理施設の利用許可書が!』


 ウエスギ『日付けはいつだ!?』


 ノブナガ『8月15日、… …今日です!』


 ウエスギ『書類の画像を送信してくれ!』


 ノブナガ『はい!』



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 画像がきた。

 机にならべられた書類を拡大して読んだ。




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 【利用許可の通知書】


  今井雪 殿


  自殺管理施設の利用を許可します


  執行日


  令和19年、8月15日


  時刻 午前 5:00




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 下部に、厚生大臣のハンコが押されていた。

 何度も確認した。

 現在、仮に今井が、施設にいるのなら。

 今日の夜が明ける朝、

 午前5時に執行されてしまう。


 現在時刻を確認した。

 3時27分。

 いまから1時間半後。





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 ウエスギ『君の姉はいま、東京都内にある、

      自殺管理施設にいる可能性が高い。

      執行時間は、

      午前5時となっている』


 ノブナガ『そんな……

      ウエスギさん!

      姉ちゃんのいる施設に、

      オレがいまから行きます!』


 ウエスギ『できない。

      自殺の執行日の前日からは、

      家族との面会は許可されない。

      場所も特定できない』


 ノブナガ『なにそれ… …』


 ウエスギ『法律だ。個人情報を保護するための』



 ノブナガ『ウエスギさん… …。

      姉ちゃんを… …助けるためには、

      どうすればいいの?』




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 答えは簡単だった。

 今井自身が、自死することを拒否して、

 生きることを明確に表明することだ。

 ぼくは、ノブナガに伝えた。




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 ウエスギ『本人の意思を変えるしかない』










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