26-3 君を探して




──────────────────



 ウエスギ『ぼくは、スノーナウの友人だ。

      彼女は、どこにいる!?』


 ノブナガ『99階、ソロで戦っているよ』


 ウエスギ『ちがう! 今井雪が現実の世界で、

      どこにいるか教えてくれ!』


 ノブナガ『はあ? あんただれ? 

      なんで名前、知ってんの?』



──────────────────




 ノブナガが警戒するのは当然だ。

 冒険者ウエスギなど

 素性の不明なキャラクター。

 簡単に個人情報を教えるはずもない。





──────────────────




 ウエスギ『ぼくの名前は、上杉令也。

      今井の同級生で友人だ。

      彼女がどこにいるか知りたい。

      緊急事態なんだ』


 ノブナガ『緊急事態? 

      信用できない。あんたの知っている、

      今井雪の情報を教えてよ』




──────────────────




 二年生のときに同じクラスだったことなど、

 高校時代の関わりを手短に伝えた。




──────────────────



 ノブナガ『最終確認させて。

      スノーナウの本名。誕生日。

      好きな食べもの。飲みもの。

      必殺技をこたえて』


 ウエスギ『今井雪。

      令和元年12月23日生まれ。

      好きな食べものは、鳥の足の唐揚げ。

      飲みものは、レモンスカッシュ。

      必殺技は、

      ダーク・ホワイト・ブリザードだ!』


 ノブナガ『正解です。ウエスギさん。

      今井雪は、オレの姉ちゃんです』




──────────────────



 弟……、

 弟がいたのか。

 ぼくは驚いた。

 今井とは、

 家族の話をしたことがなかったから。




──────────────────



 ウエスギ『弟なのか、彼女はどこにいる!?』


 ノブナガ『オレも探しているんです。

      二日間も、家に、帰ってなくて……』



──────────────────




 嫌な予感は続々に当たる。

 視界上、きれぎれに羅列される文字からも、

 ノブナガの動揺がうかがえた。




──────────────────




 ウエスギ『ノブナガ、

      落ち着いてきいてくれ。

      時間がない。

      不謹慎だが単刀直入に言う』


 ノブナガ『はい……』


 ウエスギ『君の姉さんは、

      死のうとしている可能性がある。


 ノブナガ『えっ……そんな』


 ウエスギ『思いあたる、原因はないか?』


 ノブナガ『……あります。

      オレんちは、三人兄弟で、

      いちばん上に、

      もう一人、姉がいました……』




──────────────────




  姉。

  今井雪には、姉もいるのか。




──────────────────



 ノブナガ『けど、今年の春に、

      病気で亡くなりました。

      たぶん、それが原因だと……』




──────────────────




 そんなことが、あったのか。




──────────────────



 ウエスギ『それは、いつだ?』


 ノブナガ『3月10日です』



──────────────────




────3月10日。卒業式の日。




──────────────────




 ウエスギ『3月10日に、

      なにが。あったんだ?』


 ノブナガ『午前中に、姉の病気が悪化して、

      危篤状態になり… …、

      夜に、亡くなりました』


 ウエスギ『……』




──────────────────




 だから、卒業式のあと、

 今井は図書室に来れなかった。

 メールに書かれていた、急用とは、

 姉の死のことだったのか。


 体育館、式で歌いながら、

 泣いていた今井の横顔がちらつく。




──────────────────




 ノブナガ『高校卒業してから、

      姉ちゃんは、毎日、

      部屋にひきこもって

      ……ゲームばっかりしてて……』




──────────────────




 卒業式の後日も、

 連絡がとれなかったのはそのせいか。




──────────────────




 ウエスギ『そうか。とりあえず、

      彼女の居場所を知りたい。

      心あたりはないか?』


 ノブナガ『オレも探しているんですが、

      わかりません』


 ウエスギ『非常時だからしょうがない。

      姉さんの部屋を調べて、

      何か、手掛かりはつかめないか?』


 ノブナガ『はい。調べてみます』



──────────────────




 一旦、VRグラスをはずし、

 自分の部屋にもどった。

 気分が悪く立ちくらみがして、

 吐き気をもよおした。

 真っ暗な部屋に青白く染まったカーテン、

 ソワソワと夜風ではためく。

 じっとしていられず服を着がえて財布を持ち、

 ぼくは、なにかに備えた。


 数分後、VRグラスが点滅した。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る